兎《うさぎ》さん。どういう事?

白福路

第1話  巫病《ふびょう》編 其の壱



一人の高校生くらいの少女が事務所の机の椅子を反らしながら大きく背伸びをする。

向かいに座るちょっと胡散臭いイケメンの店主を見つめるとニコリと笑う。

店主は、少し無機質な瞳で見つめ返すと釣られて微笑み返す。


店主「何だ?どう子。」


善財どう子「私、兎さんの所でバイト出来てほんと良かったなって、ふと思っただけです。」


兎「そうか」


善財どう子「そうですよ。」


彼女はそういうと入口のガラスドアを眺める。


入口のガラスドアと外の景色の見える壁ガラスには、色々な広告ステッカーが貼ってある。占いの扱う種類にそれぞれの鑑定料。


ただ、目に見えて胡散臭く見えるのは霊現象、調査、祈祷受付の大きな文言。

そろそろ本日一人目の予約されたお客様が来店される時間。

どう子は立ち上がりお茶請けの準備を始めた頃、ガラスドアが開きチリンチリンと鈴の音が鳴った。


善財どう子「いらっしゃいませ。ようこそ、こんにちわ。」


どう子は、急ぎ入口までお迎えに行くと一人の母親らしき女性と大きなマスクをした小学生くらいの女の子が立っていた。少女の目の周りは眠っていないのかパンダのように大きな薄黒いクマが出来ている。

突然、女性がどう子の手を掴むとしゃがみ込み泣き叫んだ。


「もう、他に頼れるところが無いのです。どうか、この子を助けてください!!」


どう子は、驚きながらも少女の方も見ると、少女はマスクを外し彼女を見つめ返す。

両頬は殴られたような跡、唇はところどころ切れ血が固まっている。


少女「お姉ちゃん。助けて、私・・・怖い・・・眠るのが・・怖いよ・・・」


奥から店主の兎が声をかけてきた。


兎「こんにちわ。さあさあ、こちらにお座りになって。お話を聞きましょう。」




どう子は、身体に寒気と鳥肌が沸き起こるのを感じる。

(ヤバイ・・・これ、久しぶりの・・・本気のやつ・・だ・・・)



応接のテーブルを挟み親子と兎、どう子が対面で座ると母親が話し始めた。


母親「この子、先週くらいにお友達と旧校舎で遊んだ日の夜から・・寝ているとうなされる様になって・・・・あの・・この子の体を・・見てもらえますか・・・」


母親はそういうと少女の上着を脱がし始めた。

少女の体には虐待に逢ったような鬱血した痣が顔、背中や腹にある。

それよりも、両腕にある幾つもの切り傷から血がにじんでいる。


どう子は、少女の尋常ではない様相に寒気と震えが走る。


母親「この子が朝起きるたびに痣が増えて眠りたくないと言い始めたんです。体の傷が気になって医者に見せると虐待を疑われて、今日まで児童相談所がこの子を保護したんですが・・・」


兎「・・・それで、何故私のところに?」


母親「児童相談所でも・・痣が増え続け・・・それで、職員さんが自傷行為を疑って一晩寝ずにこの子を見てた時、見えない誰かに朝まで殴られていたそうです。今朝、児童相談所から話を聞きお祓いをしてくれるところを薦められて・・ここに・・」


兎は、少し間を置き少女に話しかけた。


兎「ねえ。もしかして、いつも同じ場所の夢を見る?」


少女はうなずき答える。


少女「知らない男の子が二人。それと包丁を持った怖いおじさんが出てくるの・・」


兎「同じ夢の内容かな?」


少女は、もう一度うなずく。


少女「旧校舎で知らない男の子2人と遊んでいるとき、突然包丁を持ったおじさんが教室に入ってきて追いかけてくるの・・私を守ろうとして男の子たちが殺されちゃうの・・・私は最後にグーで殴られたり蹴られたりして、包丁を何回も刺してきて・・・そうしたら朝になってる。」


どう子は、少女が嘘をついていないと感じるが、どう声をかけてよいか思いつかなかった。

店主の兎は、しばらく天井を見るとポリポリと頬を搔きながら、もう一度母親を見た。


兎「お母さん。お嬢さんにこのソファーで暫く休んでもらってもよろしいですか?」


母親「は・・はい。」


兎「お嬢ちゃん。あんまり眠れてないんでしょ。僕たちが近くに居るから安心して眠って・・・何かあったら直ぐ起こすから」


どう子は、少女をソファーに寝かせるとブランケットを掛ける。

すると少女が小声でどう子に話しかけた。


少女「ねえ。お姉ちゃん。あのお兄さん何で頭の上が光ってるの?」


どう子は、兎を見るが特に頭の髪の毛が薄くなってるでもなく何時もの彼。


どう子「少女ちゃん。男の人は髪の毛気にするから、大きい声で言っちゃだめよ。それにまだまだ彼の髪はフサフサだからね。」


少女「・・・・」


少女は、しばらく兎を見つめていたが、少しずつ目を閉じ眠り始めた。








少女が眠りについて、30分程経つころ少女がポツリポツリ寝言を言い始めた。


部屋の空気が下がり始めた感じがする・・・・

寒い・・・どう子が母親を見ると母親も腕を組みさすっている。

どう子は、背筋が寒くなるのを感じ兎を見た。


兎「・・・・どう子。防犯カメラを赤外線モードに変えて室内の状況を見てくれ


どう子は兎の机に向かいモニターを確認する。


どう子「・・・・え・・・?」


どう子「う、兎さん・・・室温は・・・マ、マイナス2℃・・・・」


どう子は、何度も室温を確認するが間違いなく部屋は0℃を下回っている・・・


それよりも・・・ソファーで眠っている少女に目が釘付けとなった。


どう子「う・・・兎さ・・ん。」


どう子はモニターとソファーに眠っている少女を何度も見比べる・・

どう子は震えながら兎に叫んだ・・・


どう子「兎さん!モニターに映ってる少女が・・・・体温が・・・18℃・・・

少女が・・少女が二人に分かれて空中に浮い・・てます!!」



兎はそれを聞くと、少し微笑むような顔で下を向くと真顔で顔を上げる。




兎「お母さん・・・これは・・・」





まぎれもない




霊現象です・・・・・




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