ep78.「人の言うこと拡大解釈して良いように受け取ってさ」
喜屋武は自分にかけられた言葉に苦笑いして小走りに寄ってくる。
「MVPだなんてそんな……」
「いやいや石橋君の言う通りだよ。喜屋武さんが駆けつけてくれなきゃあたしは名シーンに間に合わなかっただろうし、土壇場の嘘八百にも随分助けられたし……ね!」
ね、話を振られて石橋は強くうなずいた。
「そうだね――あ、そうだわね。昨日の今日でなんか変な感じだけど、助かったわよ喜屋武さん。おかげで暴力イカレ野郎って言われないで済みそう。……先生は何て?」
「先生には全く疑われてないよ。河合君もだんまりで否定も肯定もしなかったみたいだし。何か先生方にはちょっと、申し訳ないぐらいに心配されちゃった。明日から授業に出る前にカウンセリングルームに登校しろってさ。……あのさ、本当にお礼を言われるようなことはしてないんだ。私は石橋君や玖珠さんがどんな事情で友だちになってたかも知らないで、勝手な正義感で勘違いして暴走して……ほんと情けない。昨日はごめん」
言い終えて、また昨日のようにしゅんと喜屋武がうなだれた。玖珠はその間に入って、石橋に弁明を試みる。
「あのさ石橋君。昨日の喜屋武さんの許されざる蛮行についてなんだけど」
「許してやんなさいよ。――なんかもう察しがついてる。どうせ河合にでもそそのかされてやったんでしょ? そりゃ簡単に乗っかっちゃうのは喜屋武さんの悪いとこだと思うけど、どう考えても焚きつけた奴が悪いわよ。それにあいつの口車がどんだけ上手いかはアタシもよく知ってるわけだし」
「さっすが石橋君、飲み込みがはやーい! ――ほらボスもこう言ってることだからさ、そう気にしないでよ喜屋武さん」
喜屋武は照れ笑いを浮かべた後、気まずそうに頬をかきながら首を振った。
「確かに河合君の話をうのみにして舞い上がっちゃったこともあるけど、やっぱり私のどこかに直情的で向こう見ずなところがあるんだから反省するよ。人の言うこと拡大解釈して良いように受け取ってさ。……これじゃ安斎さんにも申し訳ないや」
「安斎さん……?」
唐突とも言えない、妙なタイミングで現れた人物の名前を石橋は聞き返す。
照れ笑いの喜屋武が目を逸らしながら、気まずい暴露話でもするように口を開く。
「河合君はともかくとして、安斎さんは良かれと思って私に助言してくれたんだよね。多分だけど安斎さんは私が女の子を好きだってことを悟ってて、そのとき彼女――“もし相手が男なら、女にしか使えない武器がたくさんある”って言ってくれたんだ。さっきの河合君のときについた嘘も、安斎さんの言葉のおかげで思いついただけ。きっと安斎さんは、私に嘘や暴力を振るってほしくて言ったわけじゃなかっただろうに。……ほんと情けないな、私の秘密を黙っててくれてる彼女の期待まで、裏切ってるわけなんだから」
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