遥か彼方のユメセカイ
夜咲怜
プロローグ
空には真っ黒な雨雲が全体を埋め尽くしており、一時間ほど前から本格的に雨も降り始めていた。少しずつ街の景色が暗闇に染まり ——頼れるのは所々に設置されている街頭の灯りや、立ち並ぶ店と走る車のライトの明かりだけ。
見慣れた景色を横目に映しながら、ピタリと目の前の横断歩道の前で足を止めた——なんとも運の悪いことに、ちょうど信号機が赤に切り変わった所だった。
横断歩道の先頭にじっと立ち、ぼんやりと青信号に変わるのを待つ。
水しぶきを上げて走る車の音が、傘を打つ雨粒の音が
ふと
雨傘とレインコートなんて、どちらか一つだけで良さそうだけれど——そのことが少しばかり気になって、少女に
だからこれは、単なる偶然だった。
少女は左手に身に付けている腕時計を、何度も何度も
確かにこの交差点の信号機は、赤から青へと切り変わるのに、少しばかり長い時間が掛かかるけれど——記憶が正しければ、だいたい二分と三十秒くらいだったかな。
けれどもその待ち時間も、間もなく迎えるころだろう——少女から視線を
青色から黄色へ、そして赤色へと変わった。
——その瞬間だった。
自動車用の信号機が赤に変化したのとほぼ同時に、けれども歩行者用の信号機は
だからこそ少女は気付かなかったのだろう——信号機が赤色に切り変わった瞬間に、けれど停止線で止まれそうにない軽トラックが、少しのブレーキを踏むこと無く、そのまま交差点を走り抜けようとしていた。
——それは数秒にも満たない出来事だった。
運転手が急ブレーキを踏むも間に合うはずもなく、トラックは
レインコートの少女ではない。
少年だった。
ほとんど無意識のうちに体が動き出し、少女を元いた場所へと突き飛ばしていた。
あと一歩ばかり遅ければ、間に合うことはなかっただろう。
身を
全身が耐えがたい痛みに震え、体の所々から流血が止まらない。
一目見てしまえば、誰もが理解する致命傷だった。
思考もほとんど働いていない——少女の安否すら、まるで気にする余裕はない。
そもそも視界が
まだ意識だけは辛うじて保ってはいるが、それも時間の問題——すぐにでも意識が途切れ、そして深い眠りに落ちてしまうだろう。
だからこの事態がどう収束したのか、処理されたのかは分からない。
けれど。
三日ほどの時間が経過して。
次に目覚めたそこは、病院のベッドの上だった。
真っ白い天井。
生きながらえていた。
まるで何事も無かったかのように。
それが始業式の三日前のことだった。
遥か彼方のユメセカイ 夜咲怜 @yozaki-toki
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