第35話~タルスとミスティ~

 魔王達が蒼魔族の里に辿り着く前。

 ピエタの村では神官カリアが、いなくなった二人の女騎士の行方を探していた。


「あれだけ言っておきながら、自分達が姿を消すとは、一体どういう事だ」


 カリアは村の男達に捜索の協力を求めたが、多くの男はニヤニヤしながら、首を横に振るだけで、カリアに何も教えてくれなかった。この村で、何かが起きている。そんな予感はするものの、その実態を掴むことはできずにいた。陽も落ち、二人の捜索も諦めて帰ろうとする途中で、大きな荷物を持ったタルスを引き連れたアンジェの姿を見つけた。


「アンジェ!」

「あっ、カリア様」

「タルスを連れて、どこに行くつもりだ?」

「えっと、彼が逃げないように隔離しておこうと思いまして」

「隔離?」

「は、はい」


 苦しい言い訳だったが、カリアをなんとか納得させた。


「それより、騎士達の姿が消えた。何か知らないか?」

「い、いいえ、温泉にご案内してから後は、知りません」


 まもなくリスタルト王国、白の騎士団の本隊が到着する。先遣隊が行方不明だとなれば、何と言われるかわからない。カリアはそれが不安で仕方が無かった。


「とにかく、あの騎士達を見かけたらすぐに知らせてくれ。私も足取りを探してみる」

「わかりました」


 カリアは急ぎ足で去っていった。


「あのぉ、騎士様がどうかしたのですか?」


 事情のわからないタルスが聞いてくる。


「人の心配より、あなたは自分の心配をしなさい。言われたものは忘れてないわね」

「はい、大丈夫です」


 タルスが持つ大きな荷物はは、鉱石を加工するさいに使う道具一式だった。魔王蛇に言われ、アンジェが準備させたものだ。


「あんなに大きな荷物を持ってこさせて、逃がすんじゃなかったんですか?」


 アンジェは衣服の中の双頭の蛇に話しかけた。


「いいから、任せておけ。あの道具が役に立つのだ」


 ピエタの村を出た一行は、再度坑道へもぐった。タルスの案内で坑道を進む。


「どこまで行くの?」

「この先を抜けたところです」


 岩と岩の窪みに人が一人やっと抜けれるほどの隙間が空いていた。そこを抜けると急に空間が開けた。遠くに水の流れる音が聞こえる。地下水脈が流れる空洞だった。


「地下にこんな場所があるなんて」


 その光景に感動していると、タルスの名を呼ぶ声が聞こえた。その声にタルスが応える。


「ミスティ、こっちだ!」


 走ってやってきたのは、蒼魔族の娘だった。刈り上げた短髪、吊り上がった涼しげな目元、引き締まった青白い肌は一見すると少年のようにも見える。しかし、良く見れば小ぶりながらも突き出た胸と、腰からの下のラインは間違いなく女のそれだった。魔王は一目でミスラの妹に間違いないと確信した。

 ミスティは走ってくるとタルスに飛びかかるように抱き着いた。


「よかった。無事だったんだね!」

「その人は、誰?」

「彼女はアンジェ。メリダのシスターだ」


 タルスを差し置き、アンジェがミスティに話しかける。


「ミスリアは、あなたのお兄さんね」

「どうして、人間のあなたが兄の名を?」


 さすがに、肉体の関係を持ったあと、操を捧げられたとは言えなかった。


「あなた達二人の関係を、長に認めさせてあげるわ。だから、里に案内してくれない」

「そんな事ができるんですか!」


 ミスティはアンジェの言葉に目を輝かせた。その横でタルスは目をパチパチしていた。事情が飲み込めていないようだ。しばらくして、その言葉の意味を理解すると「えっー!」と叫び声を上げた。タルスのその声が、地下空洞にこだました。



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