第30話~女騎士の矜持~

 《常闇(ダークネス)》の魔法がゆるやかに解けていく。見えてきたのは洗い場で身体を重ね悶えている二人の女の姿だった。二人を縛りつけていた魔王蛇の拘束は、すでに解けていた。いや、正確に言えば一部分を除いてだ。

 ミオンの脚の間から伸びた蛇の身体は、そのままマナの部分に繋がっていた。


「あぁぁ、ダメ、また、またきちゃう!」


 何度目だろうか、膣内を蛇の頭で擦られ、マナが絶頂に達し、ビクンビクンと腰が痙攣する。その振動が魔王蛇の胴体を伝わり、ミオンへと伝わると、ミオンの中でもう片方の蛇頭が跳ねる。


「くぅわぁ! マ、マナ、ダメよ、それっ、また、だめぇぇぅ!」


 マナの絶頂痙攣により、ミオンもまた再度絶頂を迎え、その腰がガクガクと震える。


「はぁ、だってぇ、き、気持ひいいんだもん。中が、中がゴリゴリと擦られてるぅ!」


 蛇の頭が動く度に、その鱗が中全体にひっかかる。人のモノでは決して味わう事のできない快楽に、マナは夢中になっていた。そして、絶頂を迎える度に二人の魔力は魔王に吸収されていく。双頭の蛇は希少種だけあって、魔力の器は以前のトカゲとは比べ物にならなかった。幾度とない絶頂により、二人の女騎士の内包する魔力を吸い尽くすと、魔王蛇は二人の中から頭を抜いた。


「あっ、ぬ、ぬけちゃったぁ」


 どことなく、残念そうな声をマナが出した。ミオンは、脱衣所の方へ素早く逃げる蛇を追おうとしたが、腰がガクガクと震え、立つこともままならないでいた。


 魔王はあえて二人に《眷属の萌芽》を埋め込まなかった。《眷属》は増やしすぎても、その維持にそれなりの力が必要になる。何よりも、数日後に来るという白の騎士団の副団長フィリーへの復讐の為に、できるだけの魔力を溜めておきたかった。あの女騎士を自らの《眷属》にし、魔王としての身体を取り戻したうえで思う存分に凌辱する。それが、魔王の復讐の第一歩だ。

 未だに快楽の余韻に浸っているマナをよそに、何とか立ち上がり、温泉から出ようとした時、ミオンは一人の女が入ってくるのに気づいた。


「お湯加減は、いかがでしたか騎士様方」


 それは、先ほど教会であったシスター、アンジェであった。口調や声のトーンを変えているのは、法衣の中に逃げ込んだ魔王がひと芝居うたせていたからだ。


「まさか、先ほどの闇は……」


 不敵な笑みを浮かべたアンジェを見て、ミオンは魔法の闇を落としたのが、彼女だと理解した。


「いったい、私達に何をしたの!」


 睨みつけるミオンにアンジェは余裕の笑みを浮かべると、小さな声で答えた。


「魔力をほぼ失った貴女でも、私の力はわかりますよね」


 アンジェの周囲に魔力の力場が発生する。常人ではありえない、禍々しささえ感じるその力に、ミオンは怖れを抱いた。それは、アンジェの法衣の中に潜む魔王蛇の力であったが、それに気づく余裕はなかった。


「この魔力は……お前はいったい!」


 アンジェはミオンに近づくと囁いた。


「メリダ法国に伝わる魔力を吸収する方法を、貴女達にも教えてあげようと思って」

「魔力を吸収するだと?」


 ミオンは耳を疑った。魔力とは禁欲と日頃の鍛錬によってのみ鍛え、蓄えることができる。そう信じていた。


「はい、中央教会の一部にしか伝わらない神の御業です」

「世迷言を。ただのシスターであるお前が、なぜ、そんな秘密を知っている?」

「私は神に選ばれたのです」

「何だと?」

「どちらにしろ、貴女達に選択肢はないはずです。明後日騎士団の本隊が来た時に、その枯れ切った魔力の説明をどうするつもりですか」

「それはっ!」


 リスタルトの白の騎士団は、女騎士達が中心の騎士団だ。彼女達は、蓄積し練り上げた魔力で身体を強化して戦う。魔力が尽きれば、膂力も体力も並の兵士と同じ。いや、体格に恵まれないマナなどは、それ以下になってしまう。


「くっ……どうしたら、魔力を得ることができるのだ」

「魔力とは生命の源。つまり、生命の種子を吸引すれば良いのです。幸いにもここは温泉。そして、壁を隔てたあちらは男湯です」


 アンジェが視線を壁に向ける。温泉は露天になっていて、塀で遮られているだけだった。つまり、先ほどまでミオンとマナの声は男湯に筒抜けになっていたということだ。それに気づいたミオンの顔が羞恥に染まる。


 その日、ピエタ村の男湯は大勢の男達で賑わっていた。先日、湯船で救出された男達が語った出来事は、あっという間に村中に広まり、同じ事を期待する男達が長湯を決め込んでいたのだ。


「貴女の身体は気が付いているはずです。何を欲しているのか」

「なんだと」


 云われた通り、ミオンの子宮はうずき、脚の間からはとろりと粘着質の汁が溢れていた。魔王は《眷属の萌芽》を埋め込むことはしなかったが、彼女達の中に入った時、その力の一部である《渇望》を施していた。その為、二人の身体は欲していた。魔力を、その源である生命の種子を。


「あちらの子はもっと素直みたいですが」


 ミオンが振り向くと、潤んだ瞳で、涎を垂らしながら、マナが懇願してきた。


「ねぇ、ミオン。私、もう我慢できない」


 その右手は、脚の間に伸び自らの秘処を弄んでいた。


「くっ、わ、私達は騎士だ。そのような破廉恥な事を……」

「ですから、私が手伝ってあげます。これから、先ほどのように、男湯に闇を落とします。そうすれば、身体が命ずるまま種子を貪ることができるでしょ」


 先日、アンジェ自身がしたのと同じ事を、魔王は二人の騎士にさせようとしていた。

 






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