第19話~魔力の泉~
魔王城の地下を探索した二人は、封印の扉が破られている部屋を見つけた。部屋の壁は一面の本棚になっており、古びた書が並んでいた。部屋の奥には台座がおかれ、何かが刺さっていた痕跡があった。その台座を中心に浅い水たまりができている。その水は仄かに光っていた。
「なんなんだ、この場所は?」
「何かが納められていたようですね」
「この光る水はいったい?」
バーニは溢れ出ていた水を手で救うと、口に運んだ。
「不用心ですよ!」
セリカが注意すると、バーニが呻き声を出して腹を抑えた。
「だから、言ったじゃないですか……」
「なんじゃこりゃ!」
バーニが突然叫んだ。そして、四つん這いになると、直に水たまりに顔を突っ込んで、水を飲みだした。黄獣族は全身が体毛に覆われているので、そうしていると大きな獣に見える。
「やめなさい。はしたない!」
セリカはバーニの肩を持ち、引き剥がした。すると、バーニはその瞳をキラキラさせながら口を拭った。
「すっげえ、うめえぞこれ! それに、なんか力が湧いてくる」
「なんですって?」
「いいから、お前も飲んでみろ」
朱龍族と呼ばれるセリカは、龍の力を持ち炎を餌とする。だから、あまり水を飲むという習慣がなかった。それでもバーニに言われ、水を手ですくうと、恐る恐る口元に運んだ。すると、身体に魔力が染みわたるのを感じた。
「この水は……かなり濃度の高い魔力を含んでいますわ」
「なるほど、だから美味いのか。って、何で魔王城の地下に?」
「人間達の聖地には、魔力を多く含む水が湧きだしている場所があると聞いたことがあります。そこから湧き出る水は地下を巡り、南の大地を潤していると」
「ここは、北の大地だぜ!」
「おそらくこの台座に封印されていた物と、関係あるのではないでしょうか?」
そう言いながら、セリカは再び水をすくって飲んだ。戦いで失われていた魔力が、空の容器を浸すように、みなぎってくる。
「もしかして、アイリなら、何かを知っているかもしれません」
「俺、あいつ苦手なんだよな」
アイリとは夢魔族と呼ばれる種族で、魔王の最初の眷属であり、四人の将の中でも別格の扱いを受けていた。しかし、魔王が負けた後その行方が分からなくなっていた。
「それよりバーニ、感じませんか?」
セリカはそういうと、自分の下腹部に手を添えた。魔力が満ちたことにより、感覚が敏感になっていた。その事によって、感じとることができた。魔王によって注がれた《芽》が生きていることを、それは魔王が死んでいないことを意味した。
「ハハッ。そうだよな。魔王の称号を持つ男が、そう簡単にくたばるわけねえよな」
「今はどこにいらっしゃるのでしょう?」
「探し出すしかねえな。この水さえあれば魔力の補充ができる。そうなれば、人間どもにも負けるわけがねえ」
「バーニ、この場所の事は口外してはいけません」
「何でだよ」
「わからないの。私達は魔王様に寵愛を受ける事で、自らの力を高めて頂きました。その力で其々の部族を治めてきたのです。もし、この力を他の者が知れば……」
「なるほど、俺達の立場も危ういってことか……」
魔族達にとって、力あるものが部族を治めることは、当たり前の事だ。今の魔王が君臨するまで、各部族の長は皆男だった。魔力が貧しい北の大地では、肉体の能力がそのまま強さの証であったからだ。しかし魔王は自分の女となった者に魔力を与えた。部族によっては女に治められる事を良しとしない者も当然の如くいた。
「この場所は、私達四将のみの秘密といたしましょう」
「そう言えば、蒼魔族のミスラはどうしてるんだ」
「彼女でしたら、まだ南の大地を諦めていません」
「無理もねえ。蒼魔族は、山脈を境に接しているからな。少し手を伸ばせば肥沃な大地が手に入るんだ」
「無理をしなければ良いのですが」
「この水、ミスラに届けてやるか」
バーニはそう言うと、こんこんと湧き出る魔力の源水を見つめた。
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