第11話~法王の思惑~

 魔力に満ちた身体を法衣に包むクレアの姿を法皇帝は満足そうに眺めなていた。


「それでは、法皇様、私も宴のほうに戻りますわ」

「私も後で顔を出す。それからクレア、しばらくはあの勇者と行動を共にするのだ」

「かまいませんけど。魔王が倒れ魔族の脅威が去った今、彼女と一緒にいる理由は何ですか?」

「勇者の持つ剣だ」

「あの魔剣ですか」

「あれが、魔王城に封印されていたのだとすれば……もしかすると」

「もしかすると?」

「いや、推測は良そう。私の思い過ごしであるかもしれん」

「どうして強引にでも取り上げなかったのですか?」

「お前達と共にあるのが、最も安全かもしれぬからだ」


 そう言う法皇の表情は、何かを恐れているようでもあった。

 

 クレアが部屋を出ると、外で控えていた二人の少女が睨みつけてきた。

クレアは二人の少女達の胸をチラリと見ると、自らのを強調するように胸を張った。


「なっ!」


 ターニャは侮辱されたと感じ、怒りの視線をクレアに向けた。その視線に微笑みで返して、クレアはお尻を振りながら歩いていった。


「何なのよ、あの女!」


 クレアの行為と地団太を踏むターニャの姿に、ネフィーリアがクスッと笑う。


「何笑ってるのよ! 私だって、後三年もすれば、あれくらいには!」


 強気な台詞を言いながらも、ターニャは半分泣きそうな顔になっていた。


 宴の会場では、挨拶に来るメリダの貴人を完全に無視して、両手に肉を持ち獣のように食らうリリアの姿があった。その隣では、フィリーが頭を抱えている。


「リリア、お前はもう少し行儀というものをだな」

「うるせえな。性欲は我慢してんだ。食欲くらい大目に見ろや」


 勇者達一行に用意された席にクレアが戻ってきた。幸せそうにスイーツを頬張っていたアリスはクレアの変化に気づいた。


「クレア、あんた……」


 魔王との戦いで消費した魔力が全てとは言わないが、かなり充填されていた。しかも、この短時間でだ。


「さすがはアリスさん、気づきましたか?」

「どうやってそれだけの魔力を補充したの?」


 アリスは興味深々に聞いた。どんな大魔法使いでも、体内に蓄えている魔力の消耗には気を使う。アリスは魔法を使用する時は、魔力を充填させた触媒を使うことが多い。


「ひみつです。それに、アリスさんには、まだ早すぎると思います」

「なるほど、メリダ法国に伝わる秘密の儀式ってわけね、まぁ良いわ。いずれは、その秘密も私が暴いてみせるから」


 そう言うと、アリスはテーブルの上のスイーツに意識を戻した。


「それより、リリアさん。これから、どうするんですか?」


 肉をがっついてるリリアにクレアが訪ねた。


「ふぉうふるってーうぐっ!」

「食べながら話すからだ!」


 小言を言いながらも、フィリーは喉に肉を詰まらせたリリアの背中を叩いてやり、グラスの水を渡す。


「今後の事ですわ」


 アリスが渡したナプキンでリリアは口元を拭いた。


「戦もしばらく無さそうだし、金はたんまり貰ったし、久しぶりにアーバンにでも戻るか」

「私も、御一緒してよろしいですか?」

「構わねえけど、何でだ?」

「リリアさんの事が、気になるからですわ」


 妙なしなを作ってクレアが答える。が、その瞳は笑ってはいなかった。


「言っとくが、俺にはそっちの気はねえからな」

「私も、同行するわ」


 次のフルーツに手を出しながら、アリスが言う。


「なんでお前まで」

「その魔剣の力を封じ込めることができるのは、私くらいよ。それと……」


 アリスは周囲を見渡すと、声のトーンを落とした。


「あんたに正式に依頼したい事があるの」

「依頼?」 

「もう一度、魔王城に行きたいの」

「はぁ、魔王が死んだ城に何しに行くんだよ」

「覚えてない。その剣が封じられていた部屋の事?」


 言いながら、アリスは一冊の古びた本を取り出した。


「なんだ、そのきったねえ本は?」

「あの部屋にあった本よ。気になったから何冊か持ってきたの」


 魔力食い(マジックイーター)は魔王城の地下深くに封じられていた。台座に突き刺さっていた剣をリリアが抜いたのだ。その部屋には無数の書物が収められていた。


「ここに書かれてるのは、ほとんどが今では失われた禁呪よ」


 リリアの眉がピクリと動いた。金になる話を聞きつけた時の癖だ。


「金になるのか?」


 アリスが頷く。


「いいだろう。ただし、今度は前回みたいに奇襲はできねえぞ。魔族の土地をつっきらねえとな。それと、城の場所はわかるのか?」

「ちゃんと、目印を置いてきてるわ」

「よし、決まりだな。アーバンで準備して行くとするか」


 リリアは楽しそうに言った。その中で一人、気の進まない顔をしていたのはフィリーだった。


「お前はどうすんだ、フィリー?」

「私は、一度国へ帰ろうと思う。魔族との戦いは終わったが、だからと言って全てが元に戻ったわけでもない。復興が終わっていない所もある」

「相変わらず真面目だね、お前は」

「これが私だ、仕方あるまい」

「よし、じゃあフィリーの為に、乾杯すっかぁ!」

 そう言うと、リリア達はフィリーの為にグラスを掲げた。


 その後、リスタルト王国に戻ったフィリーは、父である騎士団長の命を受け、ピエタ村へと赴くことになる。

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