あまのじゃく
今日はため息ばかりが出た。
教室の窓際の私の席からは、朝は降っていなかった雨が広いグラウンドに大きな模様を描き出すのが見え、それはまるで子どもが自宅の壁にクレヨンで落書きしているのを発見した母親のような絶望感を感じさせた。
もちろん子どもなんていないけど。
梅雨はキライ。
毎朝髪はまとまらないし、細かい雨粒に濡れた夏服やスカートがジトっとした空気と一緒にまとわりついてくる。
毎日夕飯の時にお父さんがビール片手に見てる天気予報で、青い傘のマークが並んでいるのを見ると明日もかと憂鬱になった。
ボーっと窓の外を眺めている間にホームルームも終わって、友だちと軽く言葉を交わしながら廊下に出た。
梅雨の日は廊下までも薄暗く、曇り空が足元にも反射してるみたいだった。
下駄箱から少し湿気たスニーカーを取り出し、カバンからいつも入れてるちっちゃな折り畳み傘を出そうと手探りしながら昇降口に向かうと、見慣れた背中に気付いた。
「なにボーっと突っ立ってんの?」
後ろから声をかけるとヤツはおうっと言いながら振り向く。
「いやさ、久し振りに朝雨降ってなかったからさ、油断したわー」
そう言って外国の映画みたいに肩を大げさにすくめて見せる。
それでもってニヤッと笑うと
「なぁ、こうなったら走って帰ろうぜ」
とかイタズラっ子みたいに言う。
こういう時、私はいつもなんだか落ち着かない気持ちになるんだ。
「好きにすれば?」
そう言って折り畳み傘をやっとカバンから取り出して広げた。
「なんだよー、傘持ってんじゃん!助かったよー」
「いや、なんであんたも入る前提なのよ?」
「いーじゃん、減るもんじゃなし!」
そう言ってサッと私の手からちっちゃな折り畳み傘を取ると、ほらっとか言いながら歩き始める。
触れた手が少しこそばゆい。
そんな遠くもないはずの、いつもの帰り道が遠い。
なんだか息も詰まるし、こんな時に限ってコイツはなんにもしゃべらない。
何を考えてるんだか車が通る度にきょろきょろしながら車道側からこっちに少し寄ってくるし、濡れるのが嫌なのかと思えば傘は頭のところまでしか掛かってないからもう肩とかずぶ濡れだ。
たぶん私の傘に入らずに走っても同じだったんじゃないかと思う。
あー、ホントに梅雨なんて大っキライだ。
なんだか息は苦しいし、顔は火照るし、気付きたくないことにも気付くし。
仕方がないから足元を見ながら歩いた。
まだ家に着くまでは時間が掛かりそうだ、ふたり並んだ歩幅をぼんやり眺めながらそう思った。
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