Another side.見守る者

セイルが慕う、『姐さん』こと、メルミーツェ視点になります。

時系列はep.10の前半辺り、

セイルが街に戻り、独り配達をしている裏で起こっていた出来事になります。


―――――――――――――――――


■後神暦 1325年 / 夏の月 / 獣の日 pm 00:00


――妖精族の故郷 森の花畑



「ミーツェ……ごめんね、それとついて来てくれてありがと」


 随分としおらしいリリスと一緒に花畑を歩く。

 普段では考えらない、セイルが見たらひっくり返るだろう。



「ううん、いいよ。僕も顔出さないとダフネリアに小言いわれるからねぇ」


 少し冗談めかして言ってみたが、リリスの難しい表情は変わらない。

 ダフネリア……この妖精族の花畑の長。

 リリスやティスが”おばあちゃん”と呼ぶ人だ。



「……リリス、本当はセイルと一緒にきたかったよね」


「んーん、ミーツェが色々考えてるの知ってるからいいの」


 一定の条件下で、距離を無視して移動できる僕の力。

 これはこの世界の物流の常識を壊してしまう。

 だから妖精族や僕の家族、その他は数名にしか明かしていない。


 僕たちは言葉少なく歩き、ダフネリアが待つ大岩まで着いた。



「リリス、大丈夫?」


「うん……よーしっ! いっくぞー!!」


 リリスは自分の頬をパンパンと二度叩いて拳を握る。

 しおらしい態度から一変、いつもの彼女に戻るどころか臨戦態勢みたいだ。



「ダフネリア~来たよ」


「子猫か、入れ」


 子猫……僕のことだ、相変わらずの子供扱い。


 幻覚魔法で隠された洞窟の小さな入口を屈んで入る。

 後に続くリリスは僕の背中に隠れてシャドウボクシングを始めた。

 物理的に戦うワケじゃないんだから見つからないようにね……


 中に入ると輝く銀髪を肩から払いながら、ダフネリアは厳しい顔で言う。



「それで、アマリリス……私が出した条件は達成できなかったんだな」


「んーん! 全っっ然クリアできたけど!?」


 なに言ってんのリリス!?

 ほら、ダフネリアも不機嫌になっちゃってるよ。


 単刀直入なダフネリアの言葉に、リリスは真っ向から言い返した。

 腰に手を当てて自信満々に胸を張り、彼女は更に続ける。



「最初の配達の目的地まではセイルと二人だけで行けたもん! 

それもたった2週間で行って、他の依頼まで受けたんだから!!」


「しかし、戻るまでに子猫に頼っただろ?」


「うん! でもそれはミーツェの友達を助ける為だから良いんだぁよ!!」


 屁理屈じゃないか!?

 大丈夫かな、ダフネリアはキレないよね?

 取り合えず、助け舟をだそうか……



「ね、ねぇダフネリア、僕もアドが困ってるなんて知らなかったから、リリスに教えてもらえて、むしろ助かったんだ」


「だから大目に見ろと?」


 こーわっ……!


 ダフネリアの睨みは僕を黙らせた。

 しかしリリスは引き下がらない。



「なんでティスは旅に出ても良くて、あーしはダメなの!?」


「お前は落ち着きがなくて、無謀なことをするからだ」


 おおう、ぐうの音も出ねぇや……


 ダフネリアは姿勢を崩さずに凛と答えるが、リリスもまだまだ譲らない。



「セイルと旅をして慎重になったもん!!」


 段々とリリスの調子が崩れていく、このままだと以前の駄々と変わらない。

 ここは勇気を出して彼女に加勢しよう、セイルも落ち込んでるって聞いてるしね。



「あのさ、リリスは確かに危なっかしいけど、パートナーのセイルって子と一緒に成長していけると思うんだ。

僕もティスがいてくれて助かってるし、それに、リリスが協調性を学ぶ良い機会だと思わない?」


「子猫が言う事も一理ある、が……」


「ダフネリアは同族が傷つくのが嫌なんだよね? 

リリスが困ったら僕も手を貸すし、危なくなったら助けにもいくから……どうかな?」


 珍しく腕を組んで考え込むダフネリアにリリスが畳みかける。



「ばーちゃん! あーし、絶対良い子にするから!! 

お願いお願いお願いお願ーい!!」


 遂にリリスが幼児退行した……


 でもダフネリアには効果があったようで、結局、彼女は折れた。

 最後の決め手が孫ムーブとは、何だかんだでダフネリアは同族かぞくに甘いんだ。

 僕は大喜びで踊り狂うリリスを引っ張って花畑へと戻った。



「ばーちゃんもいいって言ったからすぐ街に戻ろうよ!!」


「そうだね、セイルに早く教えてあげようか」



 僕たちは吹き抜ける一陣の風と共にリム=パステルへの扉を開けた。


【ダフネリア イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093080035507750

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