■■ちゃんは今日もヘル
イズラ
■■ちゃんは今日もヘル
「どこなの」と嘆いたって、誰も答えてくれないんだ。
「”あの子”」の名前を呼んだって、もう誰もいないんだ。
「怖いよ」と泣いたって、涙はもう出ないんだ。
「痛いよ」と苦しんだって、体はもう戻らないんだ。
ここは、”知らない人の家”。
なんで、こんなところにいるんだろう。
どんどん腐食していく。
それなのに、いつまで経っても死ねない。
まだ
腐っちゃうんだ。
あぁ、死にたい死にたい死にたい死にたい――。
こんな私なんか、消せ消せ消せ消せ――。
楽しかったあの頃には、もう戻れない。
”あの子”は、今頃どうしてるだろうか。
もう名前も思い出せない、”あの子”。
あの可愛いらしい顔も、そのうち――
忘れちゃうんだろうな。
首が動かないから、天井しか見えない。
――それと、”ウジ”。
腐った私の顔は、ウジまみれなんだ。
もう、”気持ち悪い”とも思わなくなった。
何度も吐いたから、嗚咽したから、咀嚼したから。
だから今は、ただ”その時”を待つだけなんだ。
この”廃墟”にいる、2階の寝室にいる、”私というなにか”を見つけてくれるのを――
ずっと待ってるんだ。
もう、10年は経ったかな――。
ボロボロのカーテンから差し込む朝日。
割れた窓から入ってくる雨水。
雪は、特に好きだ。
冷たくて、気持ちがいいから。
私の顔の上に白いものが積もるんだ。
ちょっと舐めたりしてさ。
あの頃の私は、子供っぽくて、元気で、何にも考えてなかった。
”人のことあだ名で呼ぶタイプ”だったしね。
でも、あだ名は忘れた、みーんな。
”あの子”につけたあだ名も忘れた、ずっと前に。
あぁ、やっぱりもう一度会いたい、”あの子”に。
”あの子”以外の友達もいたはずなのに、思い出せない。
でも、それでいい。
”あの子”さえ覚えていれば、それでいい。
絶対に忘れたくないから、いつも頭の中に思い浮かべてるんだ、”あの子”の顔。
今日、久しぶりに”声”が出た。
喉はとっくに腐り切ってるはずなのに、なぜかね。
幻聴だったのかもしれない、でもそれでもいい。
「ギ……」っていうかすれた一文字だけが出た、腹からか、喉からか。
それに意味はない。でも、忘れていた思い出が、一つ蘇った――。
――ギッ……
――どうしたの? ■■ちゃん?
――ギッ……
――……怖いよ? ■■ちゃんほんとに大丈夫?
――ガハッ!
――…………なーんだ! のど飴つまらせてたんだねー! びっくりしたー!
――えへへ……
”あの子”の「声」、思い出せた。
今はそれだけで――
そうだ――。
全部、思い出した――。
なんで私が”腐った”のか――。
そうだ、肝試しに行ったんだ、あの夏の夜。
”あの子”と、”あさしん”と、”とのとのこ”と。
そしたら見つけた、樹海の中に。
この、”廃墟”を。
木々の隙間から、月明かりに照らされていた廃墟。
中に入るんじゃなかった。
だって、そこは”地獄”だったから。
あさしんは、死んだ。階段から落ちて、頭を打って――
とのとのこも、目玉に釘が刺さって、死んだ。
私は、2階の「この部屋」で、怖くて怖くて”眠った”んだ。
ボロボロのベッドの上で。
正気じゃなかったから。
それで、起きたときには――
私は、体が動かなくなってたんだ。
顔だけは動いた。
でも、それ以外動かなくなったんだ、まるで時間が止まったかのように。
それでも、時は進んだ。
何百回も朝日が差した、雨が降った、雷が鳴った。
そのうち、私は理解した。
「あぁ、”死ねないんだ”」って。
私は、この時間の中に閉じ込められちゃったんだ。
”あの子”が死んだところは、見ていない。
もし、今も生きているなら。
もし、こことは違う――どこかにいるなら。
せめて声だけでも――
――聞きたたいな
* * *
『女児のものと見られる遺体が、〇〇樹海の廃墟で発見』
『腐食した遺体はベッドの上に置かれており、解剖の結果、「
『死後2ヵ月ほど経っていたことが分かり、推定死亡日の目撃情報をもとに、現在調査中』
『また、廃墟内には他2人の遺体も発見されており、そちらについても順次発表する方針』
まだ、血が足りない。
■■ちゃんは今日もヘル イズラ @izura
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