千賀と佐野

さく景

第1話 千賀の話

小学校の頃から誰にも話しかけられなくてずっと一人だった。

でも、寂しくなかった。



母さんに、高校の制服を買って貰った。

僕の母さんは、いつもご飯やおやつ、新しい服、面白い本をくれる。

そのお陰で、暇になったことは基本的になかった。



高校2年になったときに、クラスメイトの一人の男に話しかけられた。

名前は佐野祐悟(さの ゆうご)といった。



佐野はたくさん友達がいて、俗に言う陽キャってやつだ。

どうして僕なんかに話しかけたんだろう。

なぜか今日は、佐野の周りに人はいなかった。



隣の席に座って、一緒に授業を受けて、2人でご飯を食べて、空き教室で昼寝もして



ずっと、一緒にいた。楽しかったから、

佐野と居られれば、何でも良かった。



新聞で、高校2年の男が通り魔にあった、というニュースを見た。

物騒だね。なんて佐野と話してた。



場所は住宅街の路地裏。この辺から近かった。

夕方だったらしい。



可哀想に。不幸なこともあるもんだな、と思った。

同い年だから、もしかしたら僕も、その高2の男と出会っているのかもしれない。

僕は人に話しかけないから、出会っていても多分相手は覚えていないだろう。



新聞に載っている顔写真が、ちょっと佐野に似ていたから笑ってしまった。

もちろん、佐野は生きている。



放課後、佐野と近くの廃墟の屋上に登ってみた。

佐野は、こういう問題児めいた事が好きなやつだった。

僕も、佐野とだから楽しかった。



誰も居ないからいいだろ、と佐野は言ってた。



ちょうど夕方で、もうすぐ日が沈みそうだ。

4月だし、まだちょっと肌寒かったけど、

冬用の制服のあったかさが、気持ちよかった



佐野と寝転んでいるうちに、僕はそのまま寝転んでしまった。



起きたとき、佐野は横に居なかった。



…どこに行ったのかな。

佐野のことだから、どうせ自販機にでも探しに行って、すぐ帰ってくるんだろう

僕はそのまま、目を瞑って佐野のことを待った。



さっき日が沈みそうだったのに、まだ辺りは明るかった。

今何時かな。




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