夏めくや 気ままに「初夏」の短歌集

澳 加純

1.闇にも溶けぬ

荒れ庭に 生き長らえた 芍薬の

  闇にも溶けぬ 白い花びら






やむにやまれぬ事情でお隣の家が空き家になって、幾年か。

住人がいた頃は手入れの行き届いていた庭も、すっかり荒れ果ててしまいました。


たまに現在の持ち主が来て草刈りをしていますが、雑草たちの勢いには到底追いつかない。雑草の別名を「埋もれ草」とも云うそうですが、見事な枝ぶりだった梅も椿も、丹精に手入れされていた薔薇や紫陽花も、彼らの勢力の前に埋もれ枯れてしまいました。


その中で、芍薬だけが今年も花をつけたのです。

白い芍薬の花。大輪の花が、誇らしげに咲いたのです。

幾重にも重なった花びらは、ふわりと開き、埋もれ草などには負けぬと言いたげに気高く見えます。


陽を受けてまばゆい昼間の芍薬の花も美しいのですが、夜の闇の中にそこだけ浮かぶ白さも妖しく、目に焼き付いて離れないのでした。

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