第12話
『すっごく美味しい! お婆ちゃんはどうしてこんなにおいしいご飯が作れるの?』
明莉は、隣のテーブルに座る白髪頭の老婆に話しかける。
老婆は、明るい口調で答えてくれる。
『私はね、大好きなんだ。私の店に来てくれる常連さんも、健のことも、麻由のことも、もちろん明莉ちゃんのこともね。それが理由かね』
老婆……健のお婆ちゃんは、そう言ってニカっと笑う。
明莉はお婆ちゃんの言っていることがいまいち理解できなかった。
『う~ん? 大好きだと、美味しいものを作れるようになるの? 魔法?』
そういうとお婆ちゃんは大声で笑う。
『あっはは、魔法……魔法か! 確かに近いものかもしれないね! 言うならば、愛の魔法だね』
『あいのまほう……?』
明莉が更に首を傾げると、婆ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
『ああ、明莉ちゃんも健と麻由の事好きだろう? 二人を思い浮かべて、力が湧いてきたことはないかい?』
『うん! ある! こないだだって、いつもケンにちょっかい出してくるカズキ君って男の子を追い払ったんだから!』
『あっはは、それと一緒さ。大好きな人のことを考えながら料理をすると、自然とその人の好きな味になっているものさ。明莉ちゃん、健の事守ってくれてありがとう。明莉ちゃんみたいなお姉さんがいたら安心さね。』
『うん、任せて! 私、お姉ちゃんとして絶対にケンの事守るんだから』
明莉はドンと胸を叩き、お婆ちゃんを安心させるように満面の笑みを作る。
するとお婆ちゃんは、明莉の頭を慈しむように丁寧に撫でてくれる。明莉はお婆ちゃんに撫でてもらうのが大好きだ。
『だから、お婆ちゃんもずっと一緒に……』
いてね、明莉はそう言おうとしたのだが、お婆ちゃんは笑顔のまま明莉の頭から手を放し、明莉に背中を向けて歩き出してしまう。
明莉は慌てて追いかけて手を掴もうとするが、お婆ちゃんの手はすり抜けてしまい、明莉の手は空を掴む。
『まって、お婆ちゃん! 行かないで!』
明莉は必死に走ってお婆ちゃんを追いかけるが、ゆっくりと歩いている様子のお婆ちゃんに、なぜか追いつくことができない。
思い切り走れば走るほど、開いていくお婆ちゃんとの距離に焦燥感に駆られる。ここで離れてしまってはもう二度と会えない気がした。
『おばあちゃん! 行っちゃヤダ! お願い! 待ってーーーーー』
気付くと見慣れた天井が目に入った。
「なんだ、夢かー」
明莉は、ホッと胸をなでおろす。
夢、とはいっても途中までは実際にあった過去の記憶である。
『私、お姉ちゃんとして絶対にケンの事守るんだから』
お婆ちゃん……健の祖母と小学生の頃の明莉が交わした約束だ。
健は昔から誰にでも優しい。だが、その優しさ故に気弱そうに見えるようで、いじめとまではいかないものの、同級生から揶揄われることがよくあった。そんな健を守るために、明莉がお婆ちゃんと交わしたものだった。
健を揶揄う心無い同級生も、クラスで顔が効く明莉が一睨みすれば気まずそうに去っていく。
今まで明莉はお婆ちゃんとの約束通り、姉のようにずっと健のことを守ってきたのだ。
「あちゃー、寝過ごしちゃったか」
時計を見ると、既に時刻は十三時を回っていた。今日は二限を入れていたが、すでに終わっている時間だ。
寝坊してしまった理由は分かっている。先日の知聖とのやり取りを思い出してしまい、眠れなかったのだ。
健と知聖の関係は何なのか、なぜ一緒に昼食を食べているのか、なぜ健は彼女を自分に会わせたがらなかったのか、考えれば考える程モヤモヤが募って目が冴えてしまった。
それにーーーー
「保険なんかじゃ、ないもん」
明莉は天井の模様を睨みながらそう一人呟いた。
知聖は『保険』といってきたが、絶対にそんなことはないと断言できる。
保険━━━もし八坂と別れた後、後腐れない状態で健と付き合うことができるように、など考えていない。
実際、八坂と付き合っていることを、健に言おうとしたことは何回もある。だがどうしても言えなかった。
健には自分が誰かと付き合ってることを知られたくなかったのだ。
それが気恥ずかしさからくるものなのか、健との幼馴染関係に影響を及ぼすことを危惧してなのかは自分でも分からなかったため、先日聞かれた時は何も返答することはできなかった。
でも実際に健との関係が拗れてしまっている今の状況を見えると、やはり言わなければよかったと後悔もしている。
ふとスマホを確認すると、数十件のメッセージが来ていた。
メッセージ一覧からさらっと確認していくと、ほとんどのメッセージが同じ授業を取っている友達と八坂から来ており、今日は授業に来ないのかといった心配してくれている内容だった。明莉はそれぞれに『あはは、寝坊しちゃった。。。』というメッセージと、適当なスタンプを返していく。
最後の一通を確認した時、明莉は自然と口角が上がる。
そのメッセージは健からであり、『大丈夫か?』と一言だけ来ていた。
先日の昼の一件で、健を怒らせてしまったかと思っていたため、ほっとする。
「んふふふ、なんだかんだ言って、私の事心配してくれるんだね?」
明莉は健へのメッセージの返信だけ後回しにして、ベットから飛び出る。
確か今日は健も二限までしか授業をとっていないため、今頃は家にいるはずだ。
明莉は鼻歌とともに外に出る支度を始めた。
健の家の前に着いた明莉は、小学生の頃から何千回と鳴らしてきたインターホンを鳴らす。
いつもなら、数秒で開くのだが、珍しく中々反応がない。
諦めて出直そうか迷っていると、扉を開けて健が顔を出す。
「え、明莉? なんで…?」
健は嫌そうな顔をしてきた。最近はいつもこうだ。明莉に彼氏ができたからといって、変に気を使って露骨に明莉のことを遠ざけようとしてくる。
しかし明莉は、いくら彼氏ができようと、健とのつながりは切るつもりは毛頭なかった。
お婆ちゃんとの約束のこともあるが、明莉にとって健は欠かすことのできない大切な友達であるため、ここで負けるわけには行かない。
「ケン、メッセージありがとね。でも心配してもらったところ悪いけど、実はただの寝坊でさー」
明莉はそう言いながら中に入れてもらおうと、一歩踏み出す。
いつもそうすると、健は脇に避けて中に入れてくれるのだが、今日は一向にどいてくれない。
「ちょっとケン、中に入れないんだけど?」
明莉の言葉に、健は困ったような表情を浮かべる。
「いや、明莉には八坂先輩がいるんだから、ウチに入るのはよくないって、何度も言ってるだろう」
またこれだ。明莉は健を睨みながら答える。
「だから、気にしなくても大丈夫だって!」
「そうはいかないよ」
あまり自己主張の強くない健が、この件については珍しく頑固だ。
明莉は健の胸のあたりを両手で押し、強行突破を試みる。
「中に入れろ~~~!!! ふぬぬぬぬ……!!」
「だめだって、ここは通さないよ。悪いけど帰ってくれ」
思い切り押すが、健は全く微動だにしない。
踏ん張りつつ健の表情を確認するが、健は呆れた表情をしており、あまり力を入れている様子もない。
そういえば、昔は細くて小さかった健だが、今改めて見てみると一般男性並みには体つきが良くなっており、今触れている胸板も厚くなったように感じる。
「結局健も男だったという訳ね。生意気なー!」
「えっ! どういうこと!?」
明莉の言葉に、健はなぜか動揺した様子を見せる。
健との押し合いの格闘の最中、明莉の目が玄関に置かれた黒いブーツを捉えた。女性用でハイブランドのそれは、健の家の平凡な玄関では異質なオーラを放っており、明らかに浮いていた。
「ケン、その靴だれの?」
明莉の言葉に、健は明莉の視線を追う様にしてブーツに気付くと、何でもないような顔で答える。
「……麻由のだよ」
しかし明莉は、健が一瞬顔をひきつらせたのを見逃さなかった。
「それブーツ、ティオールの新作だよね? いくらするか分かってる?」
「えー……に、二万くらい……いや、まさか五万くらいするのか……?」
健は、明莉の表情を見つつ値段を訂正してくるが、全く価値を分かっていない様子だった。
「桁が一つ違うんだよね、やっぱ麻由ちゃんのじゃないよね?」
健の家はハイブランドの靴を買える程裕福ではない。つまりあのブーツは麻由以外の女性のもの。
嫌な予感が明莉の胸をよぎる。
明莉は、靴の値段を聞いて驚愕している様子の健を無理やり押し込んで、家の中へと押し入る。火事場の馬鹿力という奴だろうか、今まで動かなかった健をどかすことに成功する。
「ちょ…いきなり力つよ…!」
健が何か言っていたが、知ったことではない。止めてくる健を払いのけ、リビングへと足を踏み入れる。
リビングには、いつも明莉が座っている椅子に腰を掛け、本を読んでいる知聖がいた。
明莉のいやな予感が的中してしまった。
身近で見せびらかすようにハイブランドを持っている人物なんて、彼女しか思い浮かばなかった。
知聖は本から顔をあげると、明莉の突然の来訪にも動じることなく、上品な微笑を送ってくる。
「こんにちは、佐藤先輩。いきなり健の家にきて、どうかされましたか?」
「……なんで、知聖ちゃんがここにいるの?」
「なんでって言われても、私が友達の……健の家に来るのはおかしいですか?」
知聖はきょとん、とした表情を浮かべている。
この状況を誰よりも理解しているにも関わらず、何も知らないふりをしている彼女にむかっ腹が立つ。
「知聖ちゃん、なんで私が怒ってるか、分かってるよね? なんでそんな変な顔してるのかな?」
明莉は思わず喧嘩腰になってしまう。
「うーん、申し訳ないのですが分からないですね。私が健の家にいるのが気に入らないということでしょうか?」
健、健、健、健、健、健、健、健、健。
知聖がその名前を口にする度に、心がざわつく。冷静でいられなくなる。
それを知ってか知らずか、彼女は何度も強調するように健の名前を呼ぶため、その度に頭に血が上ってしまう。
睨み合っている明莉と知聖の間に、玄関から走ってやってきた健が割り込んでくる。
「ちょ、ちょっと待って。明莉、今知聖さんにウチに来てもらってるのには理由があってね……」
「待って健、いちいち説明する必要もないわ」
健が説明してくれようとした矢先、知聖が邪魔をしてくる。
「ちょっと、知聖ちゃんは黙っててくれるかな」
明莉はそう言って、怒りを込めて知聖を睨みつけるが、気の強い彼女は一歩も引いてくれない。
「いいえ黙らないわ。逆に聞くけれど、佐藤先輩は何を気にかけているのかしら? 私はただ友達の家に来ているだけ。もし佐藤先輩が健の彼女であれば、事情を説明する必要は出てくるでしょうけど、もちろんそういう訳ではないわよね?」
「それは……そうだけど……」明莉は知聖の言葉に反論できず、口ごもる。
「じゃあ、説明の必要もないわね」
確かに彼女の言うことは筋が通っている。健が誰を家に入れようと、私が口を出す義理はないのは事実だ。
しかし知聖は、明莉と健の関係を何も知らないのだ。私にはお婆ちゃんとの約束がある。
知聖が健に近づく理由など分かり切っている。彼を守る側である私が、私情に健を巻き込むわけには行かないのだ。
知聖が出ていかないのであれば、健を説得して追い出してもらうしかない。
そう思った明莉は健をキッと睨みつける。
「ケン、知聖ちゃんと付き合ってないって言ってたよね? 付き合ってない子を家に入れるのはおかしいんじゃないかな?」
知聖がため息をつき、呆れるように頭を左右にを振っているが、無視して健を睨んで回答を待つ。
健は片手で頭を抑えて答える。
「明莉、これにはちょっとした事情があるんだ。」
「だから事情って何なの!!! さっきからずっと聞いてるじゃん!」
段々と、健に対してもイライラしてきた。
何もやましいことがないならば自分にも説明できるはずだ。なのに、健は知聖と顔を合わせて困ったような表情を浮かべている。
健が知聖の肩を持ち、明莉を宥めているこの構図も気に入らない。健はどっちの味方なのだ。
もう一度声をあげようとした時、ガラっと玄関が開かれた音とともに、麻由の声が聞こえてきた。
『あ、知聖ちゃん来てるの!?』
そのまま玄関からどたどたと足音が聞こえてきた後、麻由がリビングのドアを勢いよく開けて顔をのぞかせた。
「知聖ちゃんスマプラやろーーー……って明莉ちゃんも来てたんだ……どういう状況これ? 修羅場?」
麻由は、明莉を見て目を丸くすると、明莉と知聖を交互に見て顔を硬直させる。
どういうこと、はこちらの台詞だ。なんで麻由は知聖のこと知っているのか、そしてなぜそんなにも親しげなのか。どんどんと疑問が増えていく。
明莉が顔を引きつらせていると、知聖が代わりに返答する。
「こんにちは麻由ちゃん。佐藤先輩と私は元々同じサークルの先輩後輩で友達だったのよ」
知聖の言葉に、麻由は安心したように表情を崩した。
「え、なんだ、友達だったんだー、じゃあ明莉ちゃんも一緒にスマプラやる?」
今はゲームをしている場合ではない。明莉は申し訳なさそうな顔を作り、麻由の誘いを断る。
「ごめんね麻由ちゃん、ちょっと今は、ケンと話したいことがあるから。」
明莉の強めの語気に、麻由は不穏な雰囲気を感じ取ったのか、怪訝な表情を浮かべる。
すると知聖が腰を上げて、麻由の元へと歩み寄った。
「じゃ、麻由ちゃんの部屋に行きましょうか。私もスマプラ練習してきたから今日は負けないわよ」
知聖はもしかしたら、麻由を遠ざけるために気を使ってくれたのかもしれない。
知聖はそのまま麻由を連れて、リビングを出ていった。
明莉と健の二人きりになったリビングは、静寂に包まれ、カチカチと時計の進む音だけが響き渡る。
明莉は、麻由が去っていったリビングのドアを遠い目で見ながら口を開く。
「麻由ちゃん、随分と知聖ちゃんと仲いいんだね? まるで、今日初めて来たわけじゃないみたい」
健は少し黙った後、観念したように答える。
「……まぁ、何回か来てるよ」
「今日で何回目?」
「四回……いや五回目かな? 父さんも麻由も気に入っちゃってね、連れてこいってうるさくて」
五回も……そしておじさんとも仲良くなっているようだ。
「……いつの間に……こんなことに……」
健に聞こえない程度の声でそう呟き、今まで感じたことない胸の痛みに襲われたため、先ほどまで知聖が座っていた自分の椅子に倒れ込むように腰を掛ける。
そして明莉は、自分の席であるテーブルを軽く撫でる。
この健の正面の席で、私が美味しいといった後に安心したかように食べ始める健の姿に、少しくすぐったい気持ちになるのも
麻由が幼稚園に通っている頃から、彼女のゲームの相手をしてあげるのも
毎日、健の手作りのお弁当を食べていたのも
全部全部全部全部、私の大切な居場所だったのだ。
しかし気付いたら、その居場所にいるのは知聖になっている。
明莉は唇を強く噛みしめた後、覚悟を決め、口を開く。
「ケン、実は知聖ちゃんはね、八坂先輩のことが……」
「明莉、知聖さんはさ」健は強い口調で明莉の言葉を遮ってきた。健は優しく微笑みながら言葉を続ける。「いつも仏頂面をしてるし、口が悪いところがあるし、めちゃくちゃ負けず嫌いなんだ」
その時、ドアの向こうでドタンと物音がした。音の方に目を向けると、ドアのすりガラス越しに知聖らしき人影が見え、こちらの会話を聞いているようだ。しかし健はそれに気付かずに言葉を続ける。
「だけど彼女は不器用なだけ。誰かが困っていれば放っておけなくて、不器用なりに手を差し伸べてしまう。勘違いされやすいだけで絶対に悪い子じゃない。誰に何を言われようと、俺は自分の目で見た知聖さんを信じるよ。」
健は明莉の目を真っすぐに見据えてそう言った。
健は昔から洞察力が鋭い。きっと明莉が知聖に対して元々良い感情を抱いていないことを分かっていたのだろう。そして、明莉が知聖の悪口を言う前に、変なことは言うなと釘を刺してきたのだ。
健は自分の言葉なんかよりも、知聖のことを信じるということだ。何年も積み上げてきた信頼関係でさえ、もう彼女に敵わないのか。
込み上げてきた涙をこらえるため、明莉が黙っていると、健は声のトーンを落として、話を続ける。
「それにさ、さっきは明莉が付き合ってもない人を家に上げるのはおかしいって言ったけど、明莉はどうなるの? 付き合ってもないのに、ウチに上がるのはおかしいんじゃない?」
「だって男って言ったってケンでしょう!? そんなに気を遣うこと……」
「じゃあ言えるのかよ!!」
珍しく健が声を荒げたため、明莉は驚いて口を閉ざす。
健は俯きながら拳を強く握り、怒りに声を震えさせて言葉を続ける。
「八坂先輩に言えるのかよ……毎朝ウチにご飯食べに来てますって。 前に八坂先輩の前で俺の事、ただの幼馴染だって誤魔化してたし、どうせ言ってないんでしょう?」
「それは…言ってないけど……」
自分の声にも震えが混じる。健が怒っていることに対しての驚きと、恐怖から、涙が溢れてくる。
恐怖といっても健が怖いのではない、健に嫌われるのが……見限られる怖いのだ。
健は語気を強めて言葉を続ける。
「言ってないじゃなくて、言えない、だろう? 明莉もさ、心のどこかで分かってるんだよ、彼氏がいるのに異性の家に行くのはおかしいって。だから言えないんだ。」健はそこで話を区切ると、己に語りかけるように言葉を続ける。「俺だって、明莉とずっと同じ関係のままいたかったよ。でも、明莉が前に進んだんだ……俺たちの関係も、前に進まないと」
苦し気に絞りだしたような健の言葉に、明莉はやっと気付いた。
先ほどまで、十何年も自分が積み上げてきたものが、全て知聖に奪われたと考えていた。
だが違う。これは自分で捨てたのだ。
八坂先輩という彼氏と、異性の幼馴染である健を、どっちも取ろうとした自分の傲慢さが招いたことだ。
「でもケン……! 私……私ぃ……!!」
健との今の関係を失うのは絶対に嫌だった。今ここで何か言い返さなければ、彼との関係がなくなってしまうことも分かっている。
でも言葉が出てこない。何もかもが自業自得で、取り返しがつかなくて、言い訳の一つも出てこない。
泣いている明莉に気付いた健は、慰めるような穏やかな口調になり、言葉を続けた。
「ごめん明莉、でも泣かないで? 何も友達じゃなくなったわけじゃない。異性の友達として適度な距離で、やり直そうってだけ」
違う。私は健のただの友達になりたいわけじゃない。
幼馴染で、お姉ちゃんで、特別な家族に……。
「だから、えーっと、まずは呼び方から変えた方がいいかな。 佐藤さん……とか?」
佐藤さん、健に他人行儀な呼び方をされ、明莉の精神が大きく揺さぶられる。
感情に動かされるまま、にこやかな笑みを浮かべる健の頬を思い切り張った。
「ケンのバカーーーーー!!!!」
いきなり頬を張られ、ポカンとした表情の健を置いて、明莉は逃げるようにその場を走り去った。
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