わたしのうた。

御願崎冷夏

還暦詩人。

正直に言いますと、

わたしはもうすぐ還暦なのです。


それであるのに

書いたり読んだりすることを

日々のつとめのよりしろとする

とくに若いひとびとが集められているような

この清らかなパンドラの箱を

うっかり開けてしまって


ひとびとの紡ぐ言の葉たちが

ひっそりと寂しく

賑やかに饒舌に

それぞれのありさまでふりしぼるように

舞い躍っているパレードの列を

まのあたりにして


もうすぐ還暦とかそういうことは

もうどうでもよくなってしまいまして


わたしもこのパレードに

引きよせられたおどり子のように

いつのまにやらふらふらと

加わってしまっていて


還暦間近の身体衰弱に

臆することもなく

へんちくりんなダンスを

ひとり躍っています


おもうままに

おもいのままに

自分の足に

つまずきながら


わたしの家に

もはや家族らしきひとはおりませんが

拾ってきたねこだけが

意気揚々と躍るわたしをみて

みて見ぬふりをして

顔をあらっていたりして


ねこが外へ出たがるので

長い間閉ざしたままだった

窓をぜんぶ開け放ってみますと


小鳥たちのさえずりと

若い鳶が高らかに鳴く声と

強者烏が合の手を打ち鳴く声が

追いかけっこするみたいにきこえてきます


皆がおのおのの躍り方で

パレードの列のなかで

なにかをはげしく叫んだり

だれかをせつなく呼んだりしている


このいのちのありようが

とても眩しくて苦しくて

なにかとてもたいせつなこころを

忘れないでとひきずりだされて


黄金の太陽が扉をこじあける週末に

終わりそうな息をぎりぎりに吹き返した


わたしは還暦詩人なのです。

どうぞよろしく

お願いします。
















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