第19話 奇襲
「停まちゃった……急にどうしたんだろう?」
「とりあえず降りてみよう」
一先ずはナイト達は馬車から降りると、運転していた兵士に話を聞こうとした。だが、いつの間にか兵士の姿が消えており、人気のない空き地に二人だけが取り残されてしまう。
「あ、あれ!?兵士さんは何処に行ったの!?」
「分からない。けど……気を付けた方が良い」
不穏な気配を察してナイトはハルカに注意すると、馬車の下から消えたと思われた兵士が姿を現す。二人に気付かれない様に兵士は後方へ回り込み、最初にハルカを捕まえようとする。
「ハルカ、下がって!!」
「わわっ!?」
兵士がハルカを取り抑える寸前、ナイトが彼女を抱き寄せる。いきなりナイトに抱きしめられたハルカは頬を赤く染めるが、兵士は驚いた表情で腰に差していた剣に手を伸ばす。
「馬鹿な!?気づいていたのか!?」
「バレバレだ!!」
魔力感知でナイトは兵士が馬車の下に隠れた事に気づいており、いくら気配を巧妙に隠しても魔力を消さなければナイトが気付かないはずがない。兵士が剣を抜く前にナイトは踏み込み、腹部に目掛けて拳を繰り出す。
「おらぁっ!!」
「ぐはぁっ!?」
殴りつける寸前に硬魔を発動させ、魔力で固めた拳を叩き込まれた兵士は白目を剥いて気絶した。襲われたとはいえ、容赦なく兵士を殴りつけたナイトにハルカは焦ってしまう。
「ナ、ナイト君!?いくらなんでもやりすぎじゃ……」
「ハルカ!!話は後だ、今はすぐに逃げるよ!!」
「ええっ!?」
ハルカの手を掴んでナイトは空き地から抜け出すために駆け出す。何が起きているのかは不明だが、兵士がいきなり襲い掛かってきた事からただ事ではない。
最初にナイトは兵士が襲って来た理由は自分の正体を知られたからではないかと思ったが、ここまで来るのにナイトは慎重に行動してきたつもりである。王都に来たばかりのナイトは他の人間に怪しまれる行動は一切取っておらず、それに最初にハルカが狙われた事も気になる。
(もしかしてこれは……いや、考えるのは後だ。今はハルカを安全な場所に避難させないと)
ナイトはハルカの手をしっかりと握りしめ、空き地から抜け出そうとした。しかし、近くの建物の屋根から強い魔力を感じて足を止める。
「まさか!?」
「ど、どうしたの?」
ナイトが顔を向けた方向にハルカは視線を向けると、そこには屋根の上に立つ女性の姿があった。女性の手には赤色の宝石が取り付けられた杖が握りしめられ、しかもハジマリノ王国の紋章が刻まれたローブを着こんでいた。
「ナイト君!!あの人は……」
「分かってる!!赤色魔術師だ!!」
「ご名答!!」
赤色魔術師とは火属性の適性を持つ魔術師の呼び名であり、女性は杖を構えると宝石が光り輝く。ナイトはいち早く宝石の正体が魔法の力を補助する「魔石」と呼ばれる代物だと悟る。
魔石とは魔力を宿した鉱石を加工して作り上げた宝石であり、魔法の力を増幅させる効果を持つ。魔術師の女が魔法を放つ前にナイトはハルカを庇うために前に出た。
「俺の後ろに隠れて!!」
「ナイト君!?駄目だよ、当たったら死んじゃうよ!?」
「もう遅い!!ファイアボール!!」
ハルカと違って女性は詠唱も無しに魔法を発動させ、杖の先端から掌に収まる程の火球を生み出す。魔術師が通常は魔法を発動する場合は詠唱が必要だが、魔石を利用すれば詠唱無しで魔法を発現できるだけではなく、威力も調整する事ができる。
杖の先端から放たれた火球を見てナイトは逃げる時間はないと判断し、両手を構えて硬魔を発動させようとした。硬質化させた魔力ならば魔法に対抗できるはずであり、両手で火球を受け止めようとするが、何故か上手く魔力が練れない。
(しまった!?もう魔力が……なら!!)
これまでの道中の戦闘で魔力を殆ど使い果たしていたらしく、もうナイトは硬魔を発動させる魔力は残っていない。それならば被害を最小限に抑えるため、素手で火球を抑え込む。
「ぐううっ!?」
「ナイト君!?」
「まさか!?魔法を素手で受け止めるなんて!!」
ナイトが素手で火球を受け止めた事に魔術師は驚き、掌の中で火球は縮んで完全に消えてしまう。しかし、代償としてナイトの両手は酷い火傷を負う。それを見たハルカは火傷を負ったナイトの両手に自分の杖を構える。
「大丈夫!!私の回復魔法ですぐに治すからね!!」
「治すって……うわっ!?」
「癒しの力よ、かの者の傷を治す光となれ……ヒール!!」
ハルカが回復魔法を発動させた瞬間、杖から光が放たれた。ボアやロプスを目を眩ませた「ライト」とは異なり、光に照らされるだけでナイトの両手の怪我の痛みが引いて行き、あっという間に腕が治った。
(何だこの回復速度!?魔王様にも何度か魔法で怪我を治して貰った事はあるけど、こんなに早く治った事なんてないぞ!?)
魔王であるアイリスよりもハルカの回復魔法の方が効果が高く、火傷の跡さえ残さず治癒する。ナイトは改めてハルカの魔術師としての素質の高さを思い知った。
(これだけの回復魔法が扱えるなんて……やっぱりハルカは勇者なのかもしれない)
選定の儀式を受かっただけはあり、ハルカは入学前から並の白色魔術師とは比べ物にならない魔力を秘めていた。彼女のお陰で怪我が治ったナイトは屋根の上に魔術師に視線を向け、鞄からスリングショットを抜き取る。
「お返しだ!!」
「そんな玩具で……きゃっ!?」
足元に落ちていた小石をスリングショットで撃ちこみ、赤色魔術師が所持していた杖を弾き飛ばす。玩具の様な道具で自分の杖を弾き飛ばしたナイトに魔術師は焦るが、慌てて杖を取り戻そうとする。しかし、それを予測してナイトはもう一発撃ちこんで杖を再び弾き飛ばす。
「こ、この!?私を弄んでいるのか!?」
「そっちこそ何の真似だ!!俺達が何をしたっていうんだ!!」
「それは……」
「ナイト君、誰か来るよ!?」
ナイトの言葉に魔術師は焦った表情を浮かべるが、ハルカに呼びかけられたナイトは顔を向けると、大男の兵士が迫っていた。
「何を手間取っている!!もういい、お前は下がっていろ!!」
「な、何なの一体!?私達が何をしたっていうの!?」
「ハルカは後ろに下がって……流石に苛ついてきた」
次から次へと得体の知れぬ兵士に襲われる事にナイトは苛立ちを抱き、正面から迫る大男に対して堂々と歩み寄る。ナイトの行為に大男は驚くが、お互いの拳が届く位置で睨み合う。
「一発だ。あんたを一発で仕留めてやる」
「ほう、いい度胸だな……ならば覚悟しろ!!」
「危ない!?」
大男はナイトの言葉に青筋を浮かべ、遠慮なくナイトに目掛けて拳を振りかざす。それに対してナイトは避ける素振りも見せず、顔面に迫る拳を正面から受けた。次の瞬間、全身の筋肉を利用して顔面から受けた攻撃の力を右拳に流し込み、大男の顎に目掛けて繰り出す。
「おらぁっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「ええええっ!?」
自分よりも体躯の大きい大男をナイトは拳一発で吹き飛ばし、大男は自分の攻撃の力を利用されて反撃を受けて意識を失う。顔面を殴られたはずのナイトは怪我一つ負わず、せいぜい右腕が痺れた程度だった。
(ロプス君やゴンちゃんと比べたら大した事ないな……)
人間よりも圧倒的な強さを誇る魔族を相手にナイトは訓練をしてきたため、ただの人間相手に負ける気はしなかった。
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