第4話 学院の戦闘実技上位者たち①
翌日、昼食をとるために学院内の食堂に入ると、ある生徒達の集団が目に付いた。
一番目立っているのは、癖のないきれいな金髪を長く伸ばした美丈夫。オストロス・エルナバータ公子。セスリーン殿下の元婚約者だ。
その隣には、亜麻色の髪を肩まで伸ばした可憐な少女が座っている。
その少女は今や学院でも有数の有名人だ。名前はユリアーナ。
彼女こそセスリーン殿下凋落の切っ掛けになった女生徒、つまり階段の踊り場で殿下に叩かれて大怪我をした生徒だ。
今はその怪我もすっかり治っている。まあ、魔法によって治療されているから当たり前だ。
オストロス殿とユリアーナさんが前から仲良くしているのは周知の事実だったので、この2人が一緒にいても特に驚かないが、その他の面々は意外な人物達だった。
戦闘実技の学院第1位から第5位が全員揃っていたのだ。
身長190cmを超える筋骨隆々の大男が、第5位のムスタフ・エバルズ殿。
子爵家の嫡男で、他者を守る術を主に身に付けた重戦士だ。
戦闘実技の順位は模擬戦の勝敗で決まる。つまり、相手を倒せる者ほど上に行くことになり、他者を守る技術を重視している者には不利だ。にもかかわらず、5位という成績は立派なものといえる。
ちなみに、他者を守る技術も重要なものなので、その技量については順位とは別に評価されている。
如何にも実直そうな面持ちのイアン・レーリック殿が第4位。
彼は伯爵家の次男で、戦神の声を聞き神聖魔法にも長けているという異色の人物だ。
剣の腕はムスタフ殿よりも優れている。耐久力は数段劣るものの神聖魔法で己を回復しつつ非常に粘り強く戦う事が可能で、ムスタフ殿にも勝ち越している。
第3位のヤズィークさんは平民出ながら、現在総合的には学院で最も優秀な生徒と目されている人物だ。学問の分野でも3位という成績を挙げているからだ。
戦闘に関しては、軽い鎧を身に付け身軽な動きを重視する軽戦士で、回避に優れている代わりに防御力に不安があり、打撃力も強くはない。体格も僕とそれほど変わらない。
にもかかわらず、イアン殿やムスタフ殿を退けるのだからたいしたものである。
第2位は槍使いの女戦士であるアビア・イルクエトゥ殿。侯爵家の三女だ。
馬術にも長け、重装備の槍騎兵としても軽装の弓騎兵をしても戦えるという人物である。
ポニーテールにまとめた長い黒髪が白い肌の美しさを際立たせている。
その凛々しい姿に魅了されている者は男女共に数多い。
僕は、ただの戦闘力だけではなく、活躍できる場面の広さや応用力まで考慮して、軍人として総合的に考えた場合、彼女こそが学院で最も優れていると考えている。
そして第1位のファヴァルさん。
ここ1年ほどで急速に頭角を現した平民出の人物で、今や真正面からの戦闘という一点に限るならば、間違いなく彼が学院最強だ。
褐色の肌に黒い髪を短く切りそろえ、猛禽のような鋭い目と猫科の猛獣を感じさせるしなやかな長身を誇っている。
この5人は学生離れした実力者と言われていて、特に上位3人は今のまま軍に入っても主力の一角を担えるとまで言われている。
そして僕が、彼らがオストロス殿の周りにいることを意外に思ったのは、彼らが皆、権力におもねるような者ではないからだ。
彼らはセスリーン殿下が学院内で絶大な権力を振るっていた時にも、殿下に批判的な態度をとっていた。
今更オストロス殿の取り巻きになるとは思えない。
そう思って、つい暫らく目をやっているうちに、僕は自分が勘違いをしている事に気が付いた。
あの集団の中心にいるのはオストロス殿ではない。ユリアーナさんだ。
オストロス殿さえ彼女を取り巻いている一人に過ぎない。
つまり、今の学院で実質的に一番身分の高い生徒と、強さにおいて学院最高の5人が、揃ってユリアーナさんを中心に集まっているわけだ。
セスリーン殿下の凋落以来、ユリアーナさんが時の人になっているのは知っていたが、これは思った以上に影響力を大きくしているようだ。
彼らが話している主な話題は、どうやら数日後にまで迫った帝都大学院武術成果報告会についてらしい。
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