第三章 天空に住う竜
第35話 東京制圧に向けて
薫が【エキタフ】を結成を宣言してから約一ヶ月ほど月日は流れる。その間薫たちが行ったことはまず安全圏の拡張だ。現在約千人もの人たちが一つの高校で飲食を共にし寝泊まりをしている。しかし、ここまで人数が多いと体育館だけでは狭いし、他の教室を使っていても一つの教室に数十人というプライベートのない空間ができてしまう。そのために薫たちは戦える能力者たちをそれぞれ率いて東京23区の制圧を行った。これは元々薫がほとんどのモンスターを倒していたがために対して時間がかかることはなくすぐさま終了した。23区の制圧によりその場所にひっそりと避難していた人たちも【エキタフ】へと加わり現在は六千人は超える集団となった。
続いて行ったのは食料の確保だ。これに関しては蓮の能力を利用した。蓮の能力である
◇◆◇◆
こうして様々な改革を行っていた薫たちは現在とあるビルの一室に集まっていた。
このビル以外にも周囲にある建物には薫たちの直接的な部下である戦闘員たちが多く住む場所であり、主要地区と呼ばれている。他にも能力者の中でも物作りに特化した能力者たちや元々職人をしていた人たちが集まる生産地区、農業を営んでいる農業地区、生産地区、農業地区から仕入れた商品を販売する商店地区、そしてまだ役割が与えられていない住民地区と五つに別れている。この住民地区にいる人たちには将来的に領地を広げていった時に他にも多くの施設を使っていくために全員を何か仕事につかせることがあるために後々取り壊す予定だ。
「さて…」
薫は全員が集まったことを確認すると徐に声を上げた。今ここにいるメンバーは霧奈と瑠華、蓮、葵、そして澪准の薫を含めた七人だ。この六人には23区制圧の際それぞれが隊長として部下を引き連れてもらい戦ってもらっていた。ここにいるメンバーの大半はまだ十代と非常に若い。それでもここにいる六千人誰一人からも文句が出ないのはそれぞれがその戦いっぷりを見ていたからだろう。実際に助けられた人たちもいれば、部下としてその戦いを共にした者もいる。そうして自分たちの実力を見せつけたことにより新しく加わった人たちからも特に批判する声が出ることはなかった。実際彼らはかなり強い。まだ能力が発現したばかりだというのにその力は他の能力者たちを圧倒するほどだ。それほどまでに彼らの才能は恐ろしく、またそれを見てきた人たちはなにより薫の力に尊敬と畏怖を感じていた。
「次に俺たちがやるべきことそれは何だと思う」
薫がそう投げかけるも誰も何も言わない。今までは今後の方針は全て薫が決めていた。それもあり次も薫に任せておけば何とかなるだろうという考えがあったことは否めない。
そんな空気の中最初に手を挙げたのは霧奈だった。
「やっぱり演説の時に言ってたとおりまずは東京全域を治るために関西側の制圧を行うの?」
「そうだな、それも同時並行で行っていこうと思う。それよりもまずやることがあるだろ?」
薫は霧奈にそう質問するが見当がつかないのか頭を傾ける。次に手を挙げたのは蓮だ。
「まずは食料問題じゃないですか」
「え?でも今は農業も始めてるし、蓮の力で野菜と果物はたくさんあるからしばらくは困らないんじゃないの?」
蓮の発言に対して葵が不思議そうに問う。この二人は年が近いということもあり何度か一緒にモンスターを倒したことでかなり仲が良くなり現在は呼び捨てで呼び合うほどになっている。
「確かの私の力で野菜と果物はどうにかすることはできました。しかし、それだけでは到底生きては行けません。今までは倒したモンスターの肉を食べてきましたがここまで人数が多くなると遠くに行ってモンスターの肉をとってくるというのは流石に限度があります」
「なるほどな〜、蓮ちゃん賢いね〜。俺はそんなことちっとも思いつかなかったよ」
「あんたが頭使ってないだけでしょ」
澪准の適当な発言に霧奈は横目で見る。二人は良くこういった軽い言い合いをよくするようになった。二人は薫のいた世界でもこんな風によく言い争いをしていた。ほとんどの内容がくだらないようなことばかりだったが二人の戦いは【エキタフ】の中でも名物として賭けの対象になるほどだ。
そんな光景を見ていた薫は無意識に口角が上がる。こうして皆んなとまた集まれたことが嬉しく感じ、もう二度と会えないと思っていた二人とも再開することができたのは数少ない過去に戻ってきて良かったと思う瞬間だ。
「そうだ。今は蓮の能力で作った野菜と余ったモンスターの肉でどうにかしているが肉だって無限にあるわけじゃない。それじゃあそのためにはどうすればいいと思う?」
霧奈が視界の端で「モンスターの肉かー、やっぱ食べなきゃダメだよね」なんて落胆していたがそれを無視して薫は再び蓮に問いかける。
「そうですね…」
蓮は考える素振りをするがすぐに口を開く。
「モンスターを飼うとかでしょうか」
薫はその答えを聞いてニヤリと笑う。
「正解だ。ここから北の方、埼玉県の方にヘビーボアというモンスターがいる。そいつは基本的に大人しく、家畜にはうってつけなモンスターなんだ。強さもそこまでないから対処法さえ知っていれば非能力者でも簡単に捕獲できる。ちなみに以前俺たちがこの答えに辿り着くまでに半年くらいはかかったからな」
「それじゃあ今からそのヘビーボアってのを捕まえにいくの?」
「そうだな、取り敢えずは東京全域を制圧と同時並行で行こうと思う。ヘビーボアの捕獲には蓮と葵に行ってもらおうと思うが大丈夫そうか?」
「はい、問題ないです」
「頑張ります」
「それじゃあ私たちがモンスター討伐に行くってことね」
「メンツはどうする?誰がどこに行くか話し合う必要があるな」
「とりあえず霧奈と澪准の二人には一緒に行ってもらう。そして瑠華には人探しを頼みたい」
「えっ、私こいつの一緒なの嫌なんですけど」
「あ?俺も足手纏いを連れていくのは迷惑だから嫌なんだが」
「誰が足手纏いよあんたの方が私より弱いじゃない」
「強さでしか物事を判断できないんですか?俺はお前と違って不死身だから死ぬこともないし、ビビリでもない」
「誰がビビリよ!喧嘩売ってるなら買うけど」
「何だやるか?」
二人が机に身を乗り出そうとしたところで薫が咳払いをしストップをかける。澪准の横に座る葵は申し訳なさそうにペコペコ頭を下げ、蓮は完全無視、瑠華はというと楽しいそうにそのやりとりを見ている。この二人が喧嘩を始めるの止めれる人物は現状薫しかいないのだ。
薫は大きくため息を吐くとそのまま話し続ける。
「お前たち二人ならとくに苦戦することなくモンスター討伐はできるだろ。ちなみに奥多摩町には近づくなよ。あそこには天空竜が住み着いてるからな」
「天空竜ってあの時々空飛んでるやつ?」
「あぁ、一応こっちから手を出さなければ無害だから今は放置しているが時期が来たらあいつも倒しにいくぞ」
「えぇ、あんなのと戦うの?無理でしょ、どう見たってレベルが違うでしょ」
「安心しろ俺たちは倒した経験があるんだ。不可能なんてことはないさ」
「んんー」
霧奈は推し黙る。倒したといってもその時は霧奈の犠牲で倒したことができたのだ。そのことを知る霧奈にとってはあまり賛同しかねる問題だが薫がいればどうにかなるのではないかという思いもある。
「それで薫くんは何をするの?」
薫が何をするのか気になっていた瑠華がそう尋ねる。
「ちょっと《会いたい奴》がいてな…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます