第28話 氷室葵VSゴブリンジェネラル

 葵目掛けて大きな斧が振り下ろされる。大きいせいか動きはあまりにも遅い。葵は瞬時に横に飛び退くと空中に氷を生成し、それを相手にぶつける。氷は相手に当たると瞬時に砕け、その場に結晶となって粉砕する。先ほどゴブリンたちに打ったものとは違い時間をかけて作ることが出来なかったために大きさも小さく耐久力も低かったことであまりダメージを与えることはできなかった。


 ゴブリンジェネラルは氷が当たったことに物怖じせずそのまま斧を葵向けて再び振り下ろす。今度の葵は少し反応が遅れる。遅かったために斧が当たることはなかったが、斧が地面を破壊した礫が葵の頬を掠める。


 葵は頬から流れる血を拭うとに一歩後退する。今度はガブリジェネラルの周囲を走るようにして囲い、氷の礫を周囲から顔目掛けて飛ばし続ける。ゴブリンジェネラルはその鈍い動きで葵を捉えようと首を振り、葵の姿を追いかける。しかし、顔目掛けて飛んでくる氷の礫がその場で砕け、結晶を残すせいで視界が上手く取れず次第に目の前が真っ白になっていき、何も見えなくなってしまう。ゴブリンジェネラルは顔を顰めつつ目の前の氷の結晶を振り払おうと腕を振るう。その時右足に突き刺されるような痛みが走る。視界がようやく見えるようになり、何が起こったのか見てみるとそこには人間のメスが氷の剣を突き刺し、そこから血が流れていることに気づく。ゴブリンジェネラルはそのことに気づくと斧を持っていない方の手に力を入れ、その拳を人間のメス目掛けて振るう。


 自分の作戦通りにことが進んだ葵は少し気が緩みその拳がくることに気づかなかった。そして葵は自身の身に何が起こったのかわからず腹に激しい頭が走り後ろへと吹き飛ぶ。葵は壁に背をぶつけ口から空気が漏れ出る。腹と背中両方に殴られたような痛みを受け息が吸えなくなる。


(苦しい、息ができない。早く立たないと、動け!動け!動け!苦しい、苦しい、苦しい、苦しい)


 背中を激しく打ちつけたことで呼吸することができなくなり、手足が痺れて上手く立ち上がることができない。


ドシン、ドシン、ドンシ


 立ち上がろと足掻く葵へと大きな足音が徐々に近づいてくる。必死に体を動かすが、膝をつくのがやっとだ。立とうとしても上手く足に力が入らない。


 やがて体が急に空中に持ち上げられたかと思うとその時ようやく自身がゴブリンジェネラルに掴まれていることに気づく。


「クソ、離せ!離せ!」


 必死に体を捩らせ抵抗しようとするが葵の非力な力では腕一本動かすことができない。


ドシン、ドシン、ドシン


 ゴブリンジェネラルは葵を掴んだまま玉座へと近づく。そして葵はそこにいるモンスターを見る。そのモンスターはニタニタと口が裂けるのではないといわんばかりに口角をあげ、気持ちが悪いほどに目を細めている。葵はそのモンスターを見るなり背筋がゾッとするような感覚を覚えさらに体に力が入る。


「離してよ!!」


 その力は徐々に葵の体を冷たくしていく。それに最初に気づいたのは葵ではなく葵を持つゴブリンジェネラルだった。不意に冷たくなっていくその手につい足を止めてしまう。そして見てしまう。手に掴まれなんの抵抗もできるはずのない人間のメスの頭上に何か大きくて冷たい塊のようなものができていく。最初こそ人の拳よりも小さかったそれはどんどん大きくなっていき、最終的には今手に掴んでいる人間と同じほどまで大きくなっていく。


「離してって言ってるでしょ!!」


 葵の声とともに放たれたその氷は勢いよくゴブリンジェネラルの右目へと飛んでいく。距離が近く、いきなりのことだったために反応することのできなかったのかその氷はゴブリンジェネラルの右目に当たる。


「グオオオオ!」


 そのあまりの痛さと驚きで葵を掴む手が離され、葵は空中へと投げ出される。なんとか尻もちをついたことで怪我をすることはなく、無事手から離れることに成功した。


 ゴブリンジェネラルは右目を押さえつつも地面に座る葵を睨むと左手で再び掴もうとする。葵はそこから飛び退くと剣を拾い、再び死角になっている右足へと回り込み斬りかかる。先ほど斬りつけた後に重なるようにして斬ったことで肉がえぐれ、そこから徐々に足が凍っていく。


 凍えるような痛みが右足に伝わり、片膝をついたゴブリンジェネラルは左手を膝につき、右手で目を押さえていたために次の葵の攻撃に気づくことができなかった。


 葵はゴブリンジェネラルの隙を見つけるとそのまま背後から首目掛けて剣を振るう。本来ならただの鈍ではゴブリンジェネラルの体に傷をつけることはできない。しかし、葵が持っている剣は長い時間をかけその鋭さと頑丈さを兼ね備えており、薫の剣と打ち合ったときですら砕けることはなかった。そんな氷の剣だ、ゴブリンジェネラルなど紙を斬るが如くなんの抵抗を感じることなくその首は体から離れ血飛沫を上げながら空中へと跳ね飛ばされる。

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