R00
@Yoyodyne
球体
全身の体液が砂に吸い取られて行く。経血が、涙が、汗が、今では母でも父でもある地面に吸収されていくのがわかる。砂の中に身体が沈んでいくが周りは一切見えない。この感覚は初めてのものではなかった。現実を構成するパラメータが一つずつ消えていく。全てが唯一の終焉に向かって収斂してくのがu**には実感はないが理解できた。「太陽が地上に降りてきたのかもしれない。地球にインサートされた後で太陽の黒点が肛門のように蠢いて私の身体を求めて飲み込み、その自然の━人間を虐げるだけの自然の野蛮な資本が分子レベルで私を分解していくのかもしれない。」u**はボソリと呟いた。私たちは太陽を軽視しすぎたんだとu**は考えた。太陽は形而上的存在で私たちに不可侵だと。知覚の根本的基盤である太陽光はその存在がありきたりなものであるが故にそれを忘れていた、闇は光の別名であるのはそれらが表裏の関係がある時に限られる。影の存在しない白一色の世界でも逆に黒一色でも光と闇の二分法は存在できない。死が一種の定常状態だと錯覚するのはここから来ているんだろう。u**は時代の移り変わりや経済状況によって規定された家族単位を為し、そして自我という象徴秩序を反映させただけの幽霊を飼っていた頃(鏡に自分を映した時右手を振れば、向こうは左手を振る。彼女は自分の意志で手を振ったと果たして言えるのだろうか?自我というものは鏡像のみの合わせ鏡だと言えるだろう。平行に向き合って配置された鏡の一枚がなくなれば像も消えてなくなる。)人前では一人称を使用していた。それが当たり前だと考えていた。プロパガンダ工場で勤務するまでは。そこで働いている時はそれまでの人生は全て嘘で真実を見つけたと確信していた。真実は無数に存在し、しかも目の前で次から次へと機械的に生産されていった。記憶とは常に現在の模倣であり、感傷のためだけに存在するとそこでu**教わった。u**はそれまでの名前を捨て”私”から”私たち”になった。u**の雇用主は落書きの仮面をつけてるうちに自身の顔を失ってその紙の仮面が新しい顔面の皮膚になった男でhz*と呼ばれていた。彼は工場の制服である使いこまれたアナルのような黒色の三角帽子とメイド服を着ていた。ずっと見てるとそのアナルがひくつき何か得体のしれないものが向こう側で蠢いている気がしてじっとその姿を見ることができなかった。毎日同じ制服を着ていたはずだが、不思議と決まった機械油の匂いしかしなかった。工場は24時間休むことなく稼働して現実を生み出していった。既存の現実の意味と衝突し書き換わることで物質でしかない現実は書き換わる。未来は存在せず、過去は頭の中にしか存在しない。過去は現実の干渉によって規定される。バックミラー越しの風景はいつも私たちを運ぶ現在のエネルギーによって姿形を変えていく。バックミラーに映る情報が多ければ多いほど私たちは深くアクセルを踏み込む。工場での作業はその速度を変えたり、道順を変更するような作業に過ぎないのだろう。システムの安定性のためであるという建前で。変形の度に扱いづらくなり、そして最終的には再利用不可能な産廃に過ぎなくなる。以前は死が全てを肩代わりしてくれたけど、産廃に死はあるのだろうか?定期的に肉体の現実が交換され新しい現実に置き換わる。ベルトコンベアに乗った現実の加工能率の悪い工員から優先的に。既に存在している諸要素がコピーされて産み出された革新的現実は四次元的芸術である。それは意味によって価値が保証されている必要がない。幾ら名前が変わろうとも0として等価なのだ。
物語の進行はあらかじめ決まったパッケージに従う。その全貌は従事者には伝えられない。黒い全ての色を奪い取る幕が活動している環境に極小さい間隙を残して充填している。隙間を埋めるように働くが埋まることはない。
ここには睡眠時間がないのか、ここに来て一度も眠った覚えはない。いや、それとも長い事目を覚ましていないのか?時間は観念論に過ぎないとhz*は言う。閾値未満に裁断され再構築された一コマ一コマが鼻先で身を捩らせてのたうちまわりながら工場の外へ出奔する。このミミズはサブリミナルの中にサブリミナルと入れ子型に繋げたので尻に近づけば近づくほど情報濃度が濃い。目的が物語の方向性を決め、手段によって生産される。方向性を持って進んでくのをみると目的は確かに存在するのだろう。しかし、誰にもその具体的内容は分からなかった。数量化可能な価値が表面上極度に削ぎ落とされた物語は色を失っていて素手で掴むと少し滑っていてスルリと手から抜けた。個々の物語の最小要素は互換可能なように規格が決められていた。パーツが流れてこなくなった。誰かが粉体に巻き込まれたらしい。頻繁にこういったことは起き巻き込まれた私たちの一部は分解され加工されパーツと等価の物象になるためそんなことではほとんどの場合作業は止まることはないが、時たま分解が不完全で詰まることがある。そうなるとhz*以外は機械を止めることができない。u**は作業を休止し持ち場を離れ管理室に向かう。ノックし扉を開けるとhz*は首、両腕の無い肉体と接合している最中であった。その肉体は胸は大きいが乳首はついていなかったので揺れる豊満な2つのそれは心なしか重心を失い不規則に忙しなく迷子のように右往左往しているようだった。その肉は登場人物としての《子供》たちを産むためだけの都合のよいアタッチメントでしかない。hz*より腰下が20cm近く長いため位置を調節しているらしく大股びらきでhz*の凸部分に軸受けをあてがっていた。その各々の性器の接触部分はイデア界にしかないような黒い完全な球にすっぽり覆われて見ることができなかった。二人が恥部を晒したまま離れればバナッハ=タルスキーのパラドックスの要領で一つの球が元と相同な二つの球に分離される。その過程はどんな理論や計測機器を用いても知ることはできない。もしかしたら実は全く接触してなくてしているという既成事実が必要なだけで(フィクションでは既成事実も事実も大差がない)単為生殖で子供たちは産まれてくるのかもしれない。全ての現実はここから発生するのだ。目線を左手に逸しながら、手短に伝えるために頭の中で言葉を探る。しかし、実際声に出して言ったことは「暑いですね」だけだった。無言で腰を動かしている「温感の概念は物語にしかないはずなんですが」とu**は続けると、いきなりhz*は「汗を流した方がより自然に見えるか?」と問いかけてきた。「セックスの後はよくタバコを吸うだろ?なぜタバコを吸うか聞いてもただ吸いたくなるとしか言わない。そういうのは広告によって刷り込まれた嗜好なのか?そうでなくてほんとになんとなく抑圧された無意識でそう欲望してるだけなのか?無意識は意識に対して巧妙に隠されているならどの行動も無意識に拠るものだと自覚することはできないんじゃないのか?それとも理由なしにしていることに後付で理由を付加しているだけなのだろうか?私たちはそれほどまでに充足理由律の幻想を崇拝しているのだろうか?」最初の質問以外気が散って頭に入らなかったu**は正直に「セックスを編集し生産したことはありますが、やったことはないです。」と答えた。職業柄hz*との会話は自分自身との会話と変わらないとしても苦手なことには変わりがない。u**は諦め持ち場に戻るとパーツはいつも道理流れていた。機械に詰まっていた残滓を棒でつついて押し込むと流れていったらしい。その棒は粉体に巻き込まれた被雇用者の脊柱だった。この緩いS字カーブを書いたヌメりとした光沢ある棒切は何度か補給手術を受けたらしく金属性のワイヤーやポリエチレンが元々の生体部分の大半を覆い人工物に置換された神経の先端にはソケットが取り付けられていた。u**はこの労働者は頭部が存在しないタイプで首の切断面のハッチを開けると
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