第二章・異世界魔王の寝室で(4)

庭園を進むにつれて、目の前に現れたのは東屋だった。


そこでは、朝食を楽しむ少女…ティエルの姿が見えた。


彼女の前には色とりどりの果実とパンが盛られており、それを優雅に味わっているようだ。


ティエルの隣では、紫色の瞳をした小さな猫のような生き物がじゃれており、その愛らしい姿が時折ティエルの笑顔を引き出していた。


その猫のような生き物は、時折軽快に跳ねると、空中で一回転して着地するという芸を見せている。



ティエルは俺を見ると、微笑を浮かべながら手を振って招き入れた。


よろめきながらも、俺は自分の脚で歩き、そしてティエルの前に立った。


彼女は漆黒のガウンを纏っており、その美しさは、朝の光に照らされている庭園の緑と同じくらい鮮やかで、静謐な雰囲気を纏っていた。


ガウンは彼女の肩から流れるように落ち、その流れるファブリックが、彼女の優雅さを一層引き立てている。


見た目は少女なのに、この威厳とオーラは何なんだ。


紅茶のカップを手にして、彼女は静かに俺を見つめながら、柔らかく微笑んでいた。


「おはよう、レン。座って、お茶をどうぞ」


ティエルは穏やかに言った。


彼女の声には温かみがあり、その声の響きは花々の香りとともに心地よく感じられた。


ティエルは俺の名を知っている。


「どうして…俺の名を?」


立ったまま、俺は尋ねた。


その問いに、ティエルは目を細め、そして静かに答えた。


「私が、あなたを召喚したから…ね、レン。長い時間がかかったけど…」


ティエルの言葉に、しばらく言葉を失った。


召喚、長い時間…


一体どういうことなのか。


彼女の瞳に映る深い真剣さが、俺に質問をする勇気を与えた。


「君が俺を…召喚した?」


ティエルは手を振って、隣に設けられた椅子を指した。


「座って。話は長くなりそうだから」


彼女の誘いに従い、俺はゆっくりと椅子に腰を下ろした。


ティエルは紅茶のカップを私に差し出しながら、話を始めた。


「傷はどう?まだ痛む?」


「ああ…まだ痛むけど、動けなくはないよ」


「それならよかった。高熱にうなされて、貴方、何日も眠りこけていたのよ」


そうだったのか。全く記憶が無いが、体の回復具合を考えれば、時間が経過していてもおかしくはない。


「この治療は…君が?」


「治療は医師がしたけど…ふふ」


ティエルが妖艶に微笑む。


「毎晩、同衾して、私が貴方を温めてあげたの。憶えていない?」


ドキッとした。断片的にだが、柔らかな肌に抱きしめられていた記憶が蘇る。


「どうして、そこまで…」


「貴方はね、レン…私が長い時間、追い求めていたヒト…そう【選ばれし者】なの」

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