祝詞守

木兎

守人

天つ羽衣、雲間を翻りて光りわたる。


大和の真夏の朝なぎ、祭祀さいしの里に潔き日差しくだり注ぐ。


この地に、代々守り継がれし不思議の職あり。


その名は「祝詞守のりともり」と曰う。


祝詞守の務めは聖なる詞章を伝承し、八百万の神々に平安を祈ることなり。


祝詞守の子等は、いまだ乳飲み子の頃より特別の錬育を受くるなり。


言の葉の響きを学び、祝詞の詞章に通暁つうぎょうすべく、朝な夕なに心を鍛えぬ。


遙かに昔、この国の地に災いの種子ちらばみし折、一人の祝詞守が熱願の詞を諷誦ふうじゅせしと覚えつ。


「天馬、月夜に駆けよる。雲間の月に光を籠め、大和の国に満ち渡らん。八百万神の慈しみの光に、民も万物もあまねく浴れかし。災いなく穣れし年とならん」


この詞は大地に沁み入り、諸々の霊威をくぐりぬ。


平安の祈りは、潔き泉の如く国中を潤して止まず。


降らむ災いは晴れ渡り、飢饉も去りゆきぬ。


豊作の実に民は喜び酔いしれ、朝夕に祝詞守の詞を賛美せしと覚えつ。


それ以来、代々受け継がれし神聖なる詞章は、今に至るも祝詞守によりて伝承され、八百万の神々に平安の祈りが捧げ奉られつつある。


大和の国の平和は永久に守られん。

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祝詞守 木兎 @mimizuku0327

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