その男も、要注意かもしれない③

崔 梨遙(再)

1話完結:1700字

 試験監督助手のバイト、半分は女子大から来ていた。休憩中、カズヤ君は女子達のエリアをじっと見ていた。


「崔君、行くで」

「どこに行くんや?」

「あの女子大生とお近づきになるんや」

「頑張れ-!」

「崔君も行こうや!」

「僕も? なんで?」

「俺を盛り上げてくれや」

「わかったわ、ついて行ったらええんやろ?」


「お姉さん達、どこの大学?」

「〇〇女子大」

「女子大生かぁ、なあ、この男の子、カズヤ君って言うんやけど、どう?」

「どうって?」

「あなた達の恋人にどう? 童貞やから、いつも目が血走ってるし、ファミレスでエロイ話をしてくれるで」

「そんなん、最悪やんか」


 女性陣は笑っている。


「誰か付き合ってあげてや」

「うーん、無理かも」

「私も無理」

「ごめーん! 私も」

「ほな、僕なんてどう? 尽くすでー!」

「君ならいいかもー!」

「ほな、連絡先を交換しようや」

「ええよ」

「ほな、私も」

「私も……」


「僕、大漁やで。カズヤ君に飯奢ったるわ」

「俺、全然、楽しくなかったんやけど-!」

「まあ、気にするな。お前は金を握りしめて風俗へ行け」



「崔君、俺、やっぱり素人と付き合いたい」

「なんで? 風俗に行くって言うてたやんか」

「風俗は、お金がかかるやろ」

「素人の女の娘(こ)でも、お金は使うやろ」

「なんで? ホテル代だけでええやんか」

「ああ、デート代の予算は無いんやな」


 僕は、この時点で不快になった。こいつは女性をなんやと思ってるねん?


「崔君、ナンパを教えてや」

「なんて声をかけるつもりや?」

「お茶しませんか?」

「古い! そんなんで成功せえへんわ」

「一緒に食事に行きませんか?」

「古い! そんなんでついてきてくれへんわ」

「ほな、なんて言ったらええの?」

「インパクトとコンパクト、ズバリ、“ホテル行きませんか?”やー!」


「ちょっとすみません、一緒にホテルに行きませんか?」

「はあ?」



 こいつ、本当に言いやがった!



「崔君、アカンわ。“ホテル行きませんか?”って言うても、誰もOKしてくれへん」

「そりゃあ、そうやろな」

「崔君が言えって言うたやんか」

「まあまあ、そんなことはええやんけ。ほな、どうする?」

「どうしよう?」

「やりたいようにやってみたら?」

「俺は、ホテルに行きたいだけやねん」

「だからって、いきなりホテルと言われてOKされるわけないやろ」

「崔君、騙したんか?」

「いや、これで声をかけるのには慣れたやろ。これからが本番や」

「うん、どうするん?」

「“今日から僕はあなたの犬になります! ポチと呼んでください”、これや!」

「いやいや、さすがにそれはアカンやろ?」



 カズヤ君はやってくれなかった。くそ、知恵がついてしまった。つまらない。



「結局、俺はどうしたらええねん?」

「ナンパは、どうしても軽いと思われるからな、真剣味を伝えなアカン」

「どうやって?」

「この人混みで、カズヤ君の好みの娘(こ)はいるんか?」

「沢山、いるで」

「もし、その娘(こ)達と結婚できるなら結婚するか?」

「する! だって、結婚したら毎日できるやんか」

「ほな、それで行こう! “結婚を前提に、ホテルへ行きましょう!”、これや」


「すみません、結婚を前提にホテルに行きませんか?」



 本当に言ってる。



「崔君、頼むわ、本気出してくれや。横で俺のいいところをアピールしてくれ」

「わかった、ほな、誰がええねん?」

「あの娘(こ)、2人組の」

「ほな、行くで」


「お姉さん達、この男の子の話を聞いてあげてくれへん?」

「え、何?」

「この男、知り合いでカズヤっていうねん」

「はあ……」

「性欲旺盛でいつも目が血走ってるねん」

「ほんまや、怖い」

「ファミレスで自慰について語ってくれるねん」

「うわ、怖い! 怖い、怖い」

「家の周りをうろついてくれるから、警備員代わりにもなるねん」

「それ、ストーカーやんか」

「そんなカズヤ君が、お姉さん達と仲良くなりたいと言ってるねん」

「仲良くなるのは無理やわ」

「ほな、僕は?」

「君ならええよ」

「ほな、食事に行こか?」

「カズヤ君が一緒やったら嫌や」

「ほな、3人で行こう」


 僕は、カズヤ君を置き去りにするのだった。


「おーい!」



という声が聞こえたような気がしたが、僕は気にしなかった。







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その男も、要注意かもしれない③ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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