サブスト_観測者と銭湯と
高校の最寄り駅である万能駅から国道沿いを歩き、新築住宅が建設され始めている区画整理区域を進んでいくと田んぼの田舎風景に移り変わる。そこにポツンと銭湯が営業している。
「ここが私のよく通っている銭湯なんだ」
開業から数千年が経過している歴史ある建物であり、改装に改装を重ねて今に至る。ここは昔ながらの番台付きの銭湯で十四と裸の付き合いをした銭湯でもある。ススまみれの煙突から煙が立ち昇っている。ここだけ切り離せば昭和に戻ったような気分に浸れる。そんな場所を紹介したくて私は学校終わりにまちこと十四を誘ったのである。
「凄いです! 老舗です! これが日本の銭湯ですか!」
「まちこちゃんって日本人だよね?」
錆びついた看板や落書きされたブロック塀、そして煙突などスマホでパシャパシャと撮影し始めるまちこ。
「ここまで喜んでくれると何だか嬉しいね」
「本当に純粋な子なんだねまちこちゃんは」
「純粋でまっすぐで可愛いだよ。だから十四の歪んだ性癖を教えこまないでよ」
「だれがそんなことするかっ」
まちこは出入口でぴょこぴょこ跳ねながら私たちを手招きする。テーマパークに入園する直前の無邪気な子供みたいなテンションである。
「そんじゃ、あのちびっ子の元に行きますか」
「そうね。そういえばよく通っているってことはカレンの家にはお風呂は無いの?」
「ちゃんとあるよ。というか学校の寮だよ。三点セパレートの住居だよ。それに毎日通っているとは言ってないでしょうに」
「そうだったっけ」
「たまに大浴槽で足を伸ばして入りたい時があるんだよ、私は。そんなときここへ行くんだ。まあそれだけじゃないけどね」
「そもそもカレン、あなたがこんな場所に通っても大丈夫なの?」
心配そうに私を見つめる十四。あえて言葉数を少なくしている十四に私はにかっと笑う。
「ここの銭湯は代々、私の存在を認知しているから大丈夫だよ。そもそも観測者だった頃、ここを下宿先にしたこともあって先祖にはお世話になったんだ。店番だってしたこともあるんだよ」
「ここはカレンの思い入れのある場所なんだね」
十四はすこしだけ嬉しそうな顔をして銭湯を眺めている。どうしてそんなに嬉しそうにしているのか、人と距離を置きすぎた私には理解できなかった。私も一緒になって銭湯を眺める。大地震が起こったら今にも崩れそうな古い建物。正面から見た風景は数千年経っても変わらない。
「よく分からないや。ここだけはあの頃から何も変わらないんだよね。台風で一部損壊するも修繕するだけで、建物自体はずっと古臭いままだから若い子が来ないんだよ。もっと外観から今風に変えないと経営難で潰れちゃうのにね」
「そっか。良かったねカレン」
「なにが?」
「ん、なんでもない。それじゃあ早く入りましょ!」
「……変な奴」
それから私たちはお風呂に入りながら、「湖畔まちこは『妹ポジ』か『ロリポジ』か」で盛り上がり、日が落ちているのにも気づかぬまま銭湯を満喫したのであった。
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