四・聖女は悪女か
4-1 聖女のわがまま?
翌朝。屋敷で働く者にそれとなく話を聞いて回ると、マリアが何に不満を持ち、メイドを脅したのかわかってきた。
些細なことだった。食事の味付けが濃い、もっと薄味にしろと注文をつけられ、厨房はその通りにした。しかし、マリアの希望とは違い、まだ味が濃いと怒ったのだ。
自分の言うことを無視した。この町は自分を悪く思い、虐げようとしている。
そうしてメイドを責めるに至ったということだ。
「問題児だ」
聞き取りが終わって部屋に戻ったシュヴァルドをモナが待っていた。今日は昼から次の町へ移動する。なので朝早くから調べ、事情を把握したのだ。
シュヴァルドは額に手を当てて項垂れる。
「確かに、ここの料理は塩辛い。だから口に合わないのもわかる。だが、客人に合わせて味付けを変更したのに、なんで責めるんだ……」
「まだ塩辛かったからだろう」
「どれだけ薄味を好むんだろうか……」
フィリッテはマリアの好みを把握していたらしい。だから事前に厨房へマリア好みの味を伝えていた。特別仕様に変更し、フィリッテも味見をして、これならばと提供したものがだめだった。さらに改良してもだめだった。
フィリッテも、顔には出さないが困惑している。この程度ならと思ったのにだめだった。なら、次に自分が提供する料理は許されるのだろうか、と。
王城からここまで食事の管理をしていたフィリッテがチェックしているのにマリアは食べなかった。好みが変わったのか、体調の変化のせいか、それとも気まぐれか。
悪いほうへ思考が転がりそうで、頭を振る。昨夜の『自分を信じないのか』というマリアの顔が脳裏に過ぎった。マリアを疑わずに信じるのなら、理由があるから味付けに注文をつけたと考えるべきだ。
「次の町で同じことが起こらないようにしたい。到着したら俺はマリア様に話を聞くけど……」
「なら同席する。あれが何を考えているのか、俺も知っておきたい」
「モナがそんなことを言うなんて珍しいな」
「危険かどうか判断する必要がある」
「……それはちゃんと俺がするから、モナは休んでいていいんだよ」
まだシュヴァルドを気遣うのだろうか。休めと言っても頷かず、外を見て「そろそろ行こう」と話を終わらせた。
出発の時刻だ。深く話す時間はないからシュヴァルドも同意するが、釘は刺しておいた。
「俺の仕事は俺がちゃんとするから」
モナは一瞥しただけで、返事はしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます