あなたの人生を買います

プロローグ

　あなたの人生を買います。10億円支払いましょう。仕事を辞めて遊ぶもよし、贅沢に暮らすもよし、長年苦しんでいた借金から解放されるもよし。すべてあなたの自由です。この世の一部の人しか手にできない大金をあなたは一夜で手にするのです。

　ですが、残りの人生は１年となります。贅沢な暮らしは永遠に続かず、借金から解放されてもその後の人生は刹那に終わるでしょう。大事な人と過ごすにはあまりにも少なく、叶えた夢も春の夜の夢より短く感じるでしょう。

　あなたは自分の人生を売りますか？

　躊躇う方はこのままお引き取りください。そして残りの人生を大事に生きてください。

　この場に残った方は、寿命を売る覚悟をされた方とお見受けします。この契約にクーリングオフ制度はありません。後悔先に立たず。それでも決意が揺らがない方はどうぞ先へお進みください。契約を行いましょう。

　　　　　　　　　　　　　契約書（寿命の売買）

一．売主は、買主との間に、次の通り売買契約を締結する。

二．売主は残り三百六十五日を残して寿命を買主に売渡し、買主は代金十億円を引渡す。

三．寿命と代金十億円の引換えは契約終了後、即座に行われる。

四．売主は残りの寿命が二十年以上ある者に限られる。次の条件に当てはまる場合は売主の条件を満たしていない者と判断し、契約は不成立となる。

　イ）高齢により、寿命が二十年以上ないとみなされる者

　ロ）疾病などにより、余命二十年以下と想定される者

　ハ）自殺願望があり、二十年以内のうちに自殺をする予定の者

　ニ）その他の理由により、二十年以上の寿命がないとみなされる者

　ホ）第三者が売主に対し寿命の売買を行うよう強要した場合

五．代金十億円は売主のみ使用が可能。第三者の使用、または第三者への引き渡しは不可とする。ただし、次の場合においてはその限りでない。

　ヘ）売主が代金、または購入した物品等を第三者に相続、寄付する場合、取引の元これが可能となる。取引は相続、寄付された物品等が使用される限り、または取引内容が遂行完了となるまで継続する。

　ト）売主と取引を行った第三者から他者の手に渡る場合、物品等を受け取った者は取引内容の遂行義務が課せられる。

六．余命を終えるまでに代金を使い切れなかった場合、残金は消滅する。

七．売主が一年の余命を待たずに何かしらの理由で死亡した場合、買主は寿命の返還に応じない。

八．買主と御先は、売主の代金の使用方法について、条項五に違反しない限り一切介入しない。

九．売主は定期的に御先と連絡を取り、近況について嘘偽りなく御先に伝える。御先は売主の余生を本書に記録し、売主はこれに了承する。

　契約は以上となります。それでは残り一年を後悔のないようお楽しみください。