第6話『接客業の闇再び』

やる事が、やる事が多い!


誰だよ。オリヴァー君が冒険者組合作るまでは暇だからとか言ってた奴!


ホンマ許せませんわ! 反省して欲しいですわね!


しかし、私は人の過去を責めない女。ここは水に流してあげましょう。


という訳で。


今日は、キッフレイ大神聖帝国という名前の国に来ている。


正直初めて聞いた時の感想は、うるさい国名だな。だったけど、流石にそれをいう訳にもいかず、私はニッコリといつもの営業スマイルを浮かべるだけだ。


正直笑うだけならタダだからね。


「ふむ。よく来たな。エルフの、シーラだったか?」


しかし、いくら笑うって言ってもさ。色々と無理があると思うんだよね。


例えば、脂汗の浮かんだ息の荒い太ったオジサンに、ニタニタ見つめられている時とか。


ホンマ、きついッス。


正直勘弁してほしい。


前世で接客やってなかったら今すぐ逃げ出してるレベルだよ。


良かったね。接客業やってて。いや、良くは無いか。


というかどう見ても幼女である私に、そういう汚い目を向けるってどうなん?


しかし、そんな私への目線を感じてか、オリヴァー君が私の近くにスッと移動してくれた。


あらまぁ! なんてスマートなんでしょ!


いい男になってきましたねぇ。オリヴァー君!


「ではキッフレイ皇帝。話し合いをしましょうか?」


「よかろう」




そして、私を含めた王国の人たちは長方形のテーブルの片方に座り、脂オジサンと話し合う事になったのだが、正面を避けようとした私は味方である筈の王国の人たちに追いやられ、皇帝の前に座らされた。


心底嫌なんだけど。


「それで? 話とは何だ? ウィルベン王国の者よ」


「既に手紙は送っていたと思いますが?」


「改めて説明するのが礼儀というものでは無いのかね?」


「……そうですね。では改めてご説明させていただきましょうか」


王様が酷くめんどくさそうな顔をして、一から説明を始めた。


「昨今の魔物被害の増加、そして魔王同士の抗争により我ら人間の生活圏は脅かされ続けています。ですから、我らは国家という枠組みを超えて協力し合うべきだと」


「なるほど。ごもっともな理由付けだな。しかしそれでこのキッフレイ大神聖帝国を我が物にしようとは少々考えが甘いのではないか?」


「私はそんな話をしていないだろう」


「無論直接いう事はしないだろう。腐っても一国家の王だ。しかし、その言葉をそのまま受け入れる訳が無いだろう? その様な怪しげな話を」


「……」


「そもそもだ。国家を超えた組織の設立、それに民が学べる場所を作るだと? 呆れて物も言えんな」


バカにした様な言葉に、私はイラっとした気持ちを抱えながら、ジロッとオジサンを睨みつける。


しかし、そんな視線に気づいたのか、オジサンは鼻を鳴らしながら、私を見下して笑った。


「なるほど。これは君の案か。ククク。実にそれらしい。噂通りだな。現代のエルフは足元に転がるゴミにも目を向けるらしい。お優しくなったものだな」


「何かおかしいのですか?」


「おかしいさ。おかしいとも。民に知恵を付ける? 民に職を与える? その必要がどこにある! 民など放っておいても沸いてくる。しかし、それらに知恵や金を与えては、何をするか分からんだろう。生かさず殺さずがゴミ共を管理する基本だぞ」


ニタニタ笑いやがって!


乙女ゲームでは、冒険者組合も学校もあったんだぞ!


つまり、それが出来るのが正しい未来って事だ!


間違いない。


間違えているのは、このオジサンなのだ。


しかし、それが正しいとして、どうやってオジサンを説得するか。それが難しい。


「ふむ。どうやら君は、どうあってもこの提案を受けて欲しいようだな」


私は渋々ながら、頷いた。


そして、そんな私の反応を見て、オジサンは相も変わらずニタニタと汚い笑顔を浮かべながら、大仰に頷くのだった。


「良いだろう。そこまで君が頼むのならば、受けようじゃないか」


「っ! 本当ですか!?」


「ただし、条件がある」


はぁー。出た出た。


この手の話で交換条件持ち掛けてくるとか、どうせろくな条件じゃないよ。


本当に勘弁してほしい。


でも、条件ってなんだろ?


私の異世界知識満載の頭脳が欲しいとか? エルフの魔力が欲しいとかその辺かな。


……まさか、私の体が欲しいとか言わないよね? 流石にね。幼女だし。ないよね?


大丈夫だよね?


夜伽しろ。的な事言われたら全力で拒否しよ。夜伽のよ。くらいで拒否しよ。


「我が娘アイヴィと話をして、良ければ友となってくれるか?」


なんだなんだ?


やけに勿体ぶってくるから何かと思えば、そんな事か。


まぁ、良いんじゃない? そのくらいなら。


「……別にそのくらいなら」


「シーラ様。いけません」


「え?」


私は王様の言葉にすぐ横を向くが、全力で首を横に振っていた。


何? ただお話するだけでしょ?


何がそんなに駄目なの。


口で言って欲しいんだけどなぁ。


ウィルベン王国の人たち、みんな全力で首を横に振ってるんだけど、ジェスチャーじゃなくてさ。口で話して欲しいんだけど。


「ふむ。どうやらありもしない疑いを持っている様だ。ではアイヴィを呼べ。エルフであるシーラ殿と友人になれるかもしれないとな」


オジサンは相変わらずニヤニヤと笑っているが、娘に友達を作りたいという気持ちで動いているのは分かる。


なら、それほど悪い人では無いのだろうか。


うむ。人を見た目で判断するなんて良くないな。


そして、アイヴィさんを待っている間も、ウィルベン王国の人たちは必死に何かを私に訴えていた。


しかし、分からない。


口で言わなければ、分からないでしょ!


「んー。もー。しょうがないですねぇ。どなたか一緒に来て貰えますか? 話を聞きます」


「承知いたしました! では私が!」


私が我慢できずに椅子から立ち上がりながら言った言葉に、オリヴァー君が反応するが、私が歩き出す前に皇帝さんが、待ったをかけてきた。


「おっと。城内で妙な行動は止めていただこう。敵対行動とみなすぞ?」


「……っ!」


そして歩き出そうとした私や、オリヴァー君の周りでキッフレイ大神聖帝国の兵隊さんが動き、私達に近づいて行動を制限しようとする。


戦いかと私はゴーグルを付けて、魔力を高めた……のだが、張り詰めた空気を破壊する様に、扉が勢いよく開き、一人の少女が部屋に飛び込んできた。


「お待たせしましたわ!!」


「……?」


「あぁ! そのお美しいお姿は! 輝く様な白銀の髪と、まるでお人形の様に小さくきめ細やかな肌! そして、伝承通りの長い耳! 間違いないわ! 貴方がエルフなのね!?」


「ふぇ?」


「私はアイヴィ! 私とお友達になって下さるというお話でしたよね!? では是非今からお部屋に行きましょう! お父様よろしいですか!?」


「あぁ、構わない」


「キッフレイ皇帝! その様な勝手な真似を!」


「フン。騒がしい連中だ。では聞こうではないか。エルフのシーラよ。我が娘アイヴィと話をしてくれるか? 何。話をするだけだ」


「え、えぇ。それくらいなら」


「シーラ様!!」


いや、そんなに怒らないでよ。


だってこの状況じゃあ断るのも難しいでしょ。


話するだけだって言ってるんだしさ。


私が居ても大して役に立たないし。


後はお願いしますという事で。


いや、いやや? 逆にこれはチャンスなんじゃないかな。


皇帝はわざわざ娘の友達に、なんて私に言ってくるくらいだ。


きっと娘の事を大切に思っているのだろう。


なら、娘であるアイヴィちゃんと仲良くなれば交渉も有利に運ぶのでは?


うーん。これは天才。


「では行きましょう! シーラさん!」


「はい。そうですね」


「シーラ様!」


「大丈夫ですよ。ただ話をしてくるだけですから」


私は笑いながら手を振って、部屋を後にするのだった。

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