第23話 失踪令嬢の痕跡を探して
リリィの部屋にやってくる。沢山の人間が調べ物をした後らしく部屋の中は乱雑に散らかっており本人が見たら悲しくなるんじゃないだろうか?
いや、まずは本人をこの部屋に戻してあげるのが最優先か。
情報の取りまとめ役としてベアトリーチェは食堂に残っている。この部屋に来たのは私とアリスティアだけだ。
「アリスティア、今から使う魔法については誰にも秘密にしておいてくれる」
「分かったわ」
そう答えるアリスティアは少し緊張した顔をする。
事前に説明しておかないと猫になったら意思の疎通が出来ないからね。念話に関しては私とグレインが魂で繋がっているからできる特殊な魔法だし。
使い魔は猫だから基本猫の鳴き声しか話せない。
「今から私は変身魔法で猫になる。猫の感覚を使って手掛かりになるものがないかを調べてみるから」
散々みんなが調べた後だ。感知魔法に引っ掛かるような魔力は感じなかったし。
「変身魔法!? そんな魔法まで使えるの? それにミーヤは猫になったらしゃべれなくなっちゃうの?」
私がうなずくとアリスティアは覚悟を決めてくれた。本当は
「分かった。誰にも言わないし協力する」
「ありがとう! 猫になっても魔法は使えるから。ただ、ドアも開けられないし部屋から出るだけでも一苦労だからアリスティアがついててくれると本当に助かる」
「うん、私に任せて」
私はそう言って変身魔法を使う。
「メタモルフォーゼ!」
ピカッと光って私は黒猫に変化する。首には魔封じのミサンガと貰ったばかりの収納魔法がかかっているブレスレットが首輪のように巻かれている。
制服は無事に収納されてくれた。
黒猫になった私はそのまま部屋の中を見て回る。猫の視力は正直言って良くない。
私の元の体は左右とも視力1.2くらいあるけど猫になるとその10分の1くらい? 測定したことはないけど視力0.1くらいか。
だけど、猫になったのは見るためじゃない。
ん? 床に落ちている物の中からふと嗅ぎ覚えのある香りがした。私は、その香りをかぎ分けつつ、荷物を漁る。
それは一枚の白いハンカチだった。
「そのハンカチがどうかしたの?」
アリスティアが聞いてくる。多分だけどグレインの部屋で嗅いだことのある魔法薬の臭いに似ている。
たしか、強制睡眠用の魔法薬だったか……嗅がせるだけで人を眠らせることができる魔法薬。
もう薄れてしまって猫じゃないと気付かないところだった。猫の嗅覚は人間の数万倍の嗅覚があるって言われている。
犬ほどではないけど嗅ぎ分け能力にも優れているのだ。
グレインの部屋でもいろんな臭いがしていてそれぞれの臭いを勉強した成果が出た。
白いハンカチが部屋に落ちた時のままなのか、
「無地のハンカチだね。リリィさんのハンカチなのかな?」
アリスティアはハンカチを拾い上げて表裏を確かめている。アリスティアには伝えられないけどそのハンカチからはある人物の匂いがしていた。
その人物は私が転生者ではないかと疑っているベルタの匂いだった。
ちょいちょいとアリスティアの太ももをつついて窓に向いて一鳴きする。
にゃ~ん
アリスティアが頷いて「窓を開けたらいいの?」と確認してくれるので猫のまま頷く。
アリスティアが窓を開けてくれたので窓から外に出る。
昨日も今日も雨は降っていない。窓の外の屋根の上には点々とベルタとリリィの匂いがついていた。猫の体は身軽だ。私は屋根の上に登っていくとアリスティアも追いかけて窓の外に出て来た。
そうだった、アリスティアって木登りとかも平気で出来ちゃう野生派なんだよね。
ベルタは屋根づたいに移動していったのだろうか? ずっと匂いが続いて寮の端から地面に降りてそこからマンホールに潜っている。
「ミーヤ、ちょっと待って」
そんな声が上から聞こえた。
上を見るとアリスティアが屋根から身を乗り出している。
「ミーヤ! ストップ。流石にここから降りるのは無理ですから玄関から周るから。というかそこから地下に潜ったの? ここまでで報告しに行ったほうがいいかも」
確かに! 一人だったら突っ走ってこのままマンホールの中まで追いかけていっちゃうところだった。
私は雨どいをよじ登るようにして屋根から部屋に戻る。猫ってほんとに身軽で素敵。
運動音痴だった私には夢のようだ。
「それじゃあ一旦ベアトリーチェさんのところに報告に行きましょう」
黒猫の私を抱っこしてアリスティアが食堂に向かおうとするのでじたばたと暴れてアリスティアの手から逃れる。このままの格好で言ったら説明も出来ないしアリスティア以外には極力自分が猫に変身できることは秘密にしたい。
使い魔なのはさらに極秘だ。
『メタモルフォーゼ』
ピカッと光ったと思うと猫の姿から人間の姿に。残念ながらブレスレットの収納魔法から直接服を着ることはできないけど毛布を一枚羽織るようにして人間の姿に戻る。
過保護! グレイン過保護! 毛布が収納に入ってるのが私が全裸にならないためって……いや、凄く嬉しいけど。
「ふぁぁぁ……変身魔法まで使えるなんて。やっぱり宮廷魔術師の弟子ってすごいんだね」
人間に戻った私に改めてアリスティアが賞賛してくれる。
「そんな……私は全然すごくないよ。すごいのは師匠のグレインだから。一旦報告してこの後の方針を決めないと」
私はそういってアリスティアの手を引っ張って食堂に向かう。
既に日は完全に落ちようとしていた。
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