ハイエルフ女聖騎士マリエッタの場合

第2話 なかなかやるわね…

「ろ、ロレンツィオ…、だったけ…。何してるの?仕事を探しているの?」

 エルフにしてはかなり長身の美事に銀髪を今は長く伸ばしながらも、ハイエルフ貴族の鎧を着込んだ、まだ20歳になったばかりくらいに見える女エルフが、彼女より長身の、やや地味ながら整った、優しそうで知的な顔だちの、わりと育ちが良さそうな黒髪をやや長く伸ばした戦士に声をかけたのは、冒険者ギルド、彼らのあいだの通称だが、あくまでも、の集会場の掲示板の前だった。男が、張り出されている仕事依頼の紙を見つめていた所だった。其れは、ある場所での魔獣の討伐と薬草の採取の依頼だった。

「結構難しい依頼じゃない?あそこの魔獣のことを考えると?実力的には…数が多いから、あなた方二人では、あなたはいいとして、彼女さんでは、ちょっと危ないんじゃない?あなたの支援法魔法でかさ上げしてもらっていても。」

「彼女なし、俺一人ですよ。でも、マリエッタさんがそこまで、俺のことを知ってもらっていて光栄ですね。」

 彼は、ちょっと複雑そうな表情ながらも笑みを浮かべて答えた。

「同じチームになったんだから、当然よ。でも、彼女どうしたの?ケンカでもした?それとも、振られたの?」

 悪戯っぽい笑顔、にしては少しでは不自然だったが、浮かべて尋ねてきた。

「さあねえ。やりたいことがあるとか…。それに、彼女が勝手についてきているだけで、恋人というわけじゃないですよ。」

「じゃあ、私が、その仕事、ペアを組んであげようかしら?」

「は?」

 ロレンツィオだけでなく、その場、近くにいた耳ざとい連中の目が点になった。

「べ、別に…何かっていことはないわよ。私も暇だし、あんたの実力をよく見たいし、金も欲しいし…それだけよ!ご、誤解しないでよね!」

 何となく、いえば言うほど焦っている感が出てしまった。

「マリエッタさんと仕事ができるなんて光栄ですよ。」

 ロレンツィオは、穏やかな調子で答えたので、マリエッタはホッとした。“私はどうしたんだろう?”

 

 イノシシ型の魔獣。

「風よ、切裂け。」

 マリエッタの風魔法が二匹を一気に切り裂き、動きの止まった、その2匹は彼女の剣で止めを刺された。"あいつはどうかしら?"

「小進水。」

 ロレンツィオの放った衝撃魔法が、一匹を飛ばした。

「小進火。」

 剣が高熱を発した。高熱剣となったそれで、彼は倒れた魔獣にそれを腹に刺し貫いて、切り裂いた。血が噴き出した。それを巧に避けて、もう一匹、隙ありと判断したのだろう、後ろから忍びよっていた、さらに輝いた剣から高熱線が放たれた。その熱で火傷を負って怯んだところを、マリエッタの剣が一閃、止めが刺された。

「11匹ね、私の方が多いわよ、倒した数では。」

「さすがに、ハイエルフ聖騎士マリエッタ様だ。」

 マリエッタが11匹、ロレンツィオが5匹だった、それは止めをさした数である。その直前まで追いつめた数では、もう少し接近するし、薬草採取は彼がやっていた。

「あなたもなかなかだったわ。褒めてあげるわ。チームで見た時もなかなかやるとは思っていたけど。」

 本音だった。

「支援魔法をかけていただけ・・・、後は食事を作って、物を持って・・・、それだけでしたよ。」

 彼が苦笑するように言うと、"相変わらずだ・・・?"と自分自身に戸惑ったものの、直ぐに、

「何を言っているのよ。剣と魔法と小柄、手裏剣で皆を守っていたでしょう?分かっているわよ。」

"さすがだな。"

「買いかぶりですよ。それに私が、手助けしなくても大丈夫・・・かえって・・・。」

「まあ、そうも言えるけど・・・。それでも、並みの剣士以上だということはわかったわ。でも、その剣・・・なんで普通の剣・・・高位ではなくても・・・買えたのでは?連れの、か、か、か、彼女は聖槍をもっているのに、格はかなり低いけど・・・。」

 自分よりも背の低い、人間としては平均的な背の、見事な金髪をストレートに伸ばした、スリムな・・・胸はわりと大きい、"ふん。私よりは小さいわね。"とマリエッタはまず思ったが、気の強そうでいて、媚のある美人である自称ロレンツィオの恋人、婚約者である、女の姿を目に浮かべた。

「まあ、あれは私が買い与えたものですが・・・。」

「じゃあ、なおさら・・・。だいたい、なんで彼女自身で買わないかったのよ?なんで、自分の・・・。」

"彼女への贈り物なの?自分を犠牲にして・・・。そんなにあの女が大切だったと言うの?"とムカっとしたマリエッタだった。

「仕事の報酬は半々ですからね。相応の働きをしてもらわないといけないしね、あっという間に死なれちゃ後味が悪いから・・・、あいつ、金をつかってしまうので・・・ということですよ。まあ、私は聖剣などなくても何とかやっていけますし、この剣は結構いい剣ですよ。」

 この時、"もう仕方がなかったんだよ。まあ、やったね、天下を取ったかのように喜んで・・・まあ、可愛かったけど、その時は・・・。"とロレンツィオは思い出した。

「ふん。」

と言って、

「これで仕事は完了かしら。どうする?」

とマリエッタは不機嫌そうに、わざと、尋ねた。

「薬草と魔獣退治の証拠をギルドに差し出した、魔獣を売って・・・その前に、みんなをまとめて、運ばなければ・・・。それで得た金で、一緒に夕食、酒を・・・私がおごりますよ。」

「ありがとう。でも、いいの?彼女さん、怒らない?」

「仕事をしない奴に文句を言わせませんよ。」

「じゃあ、これからも度々手伝ってあげるわね。」

 さも勝ち誇ったような、いかにも嬉しそうな顔をしていたマリエッタに、ロレンツィオは、"可愛いな、"と思いながらも、心の中で大きなため息をついていた。

 

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