第29話 魔王軍を返り討ちにした。

「えーい。我が直々に相手をしてやるから名誉に思え。さあ、出てこい。」

 トカゲ顔、もといドラゴン顔の巨漢の指揮官が大声を張り上げた。自分が放った魔法攻撃や周囲に降り注いだ衝撃波、火球、雷撃で上がった土煙で、視界が遮られて、周囲の状況が把握できないでいた。副官達の助言や意見、状況報告の声が全くなかった、聞こえてこなかった。不安を感じたものの、毅然とした自分を必死に保とうとしていた。

「みんなに加護を与えて、防御結界を張って守ってやって、一番暴れたりなかったから、このトカゲ野郎は私にやらせてね。」

と聖杖、仕込み杖になっていた、から剣身を出し、もう一方の手に、細見のやや短い剣を持ったニワが、歩みだした。

「油断しないで、手っ取り早くやってくれよ。」

「そいつ・・・確か女よ。」

「いいから、とっととやっちゃいなさいよ。」

「危なくなったら、魔法で援護してあげるからね。」

「早くやれ。」

「はいはい、分かっているわよ。」

 聖女騎士のようないでたちの女に、

「馬鹿にするな。」

と巨大な魔剣を叩きつけたが、彼女は細い剣で受け止めた。

「な、なに?」

「この程度?じゃあ、早く死んでね。」

 彼女の細い剣に押し返され、後ろによろめいて、立ち直ろうとした時、魔剣が落ちて、腕がないことに気が付いた。

「うギャー。」

 激痛、そして吹き出す血が見えた。そこまでだった、彼女?の記憶があったのは。

 巨体が音を立てて、大地に崩れ落ちた。まだ息のあった親衛隊は将兵は、うめき声を微かに上げていた。怒りから立ち上がりかかったものの、すぐに崩れ落ちた。

「まるで、大剣ね。その仕込み杖で・・・。」

「本当に戦う聖女といったところかしら。」

「聖女は余分かも。」

「全く化け物か・・・私もなんだな・・・。」

 後方からの言葉に不快そうな顔を、返り血を浴びていた、向きかけたニワだが、ケンセキに抱きすくめられて、その言葉がでなかった。その代わりに、

「どさくさに紛れて、胸をもまないで・・・こんなところで・・・。」

よがるような声だった。

 しばらく無言だったケンセキは、彼女の臭いを嗅いで、

「ニワの臭いがするよ。」

「全く・・・この変態が。」

と反論したが、突き放すどころか、強く抱きしめ返した。ほんのしばらく抱き合って、体を離すと、

「止めを刺していくぞ。このへんにいる奴らは、容赦する必要がない。だろ?」

「はい。」


 今度こそは勇者を完全に超えた、よな?、とケンセキは心の中で問いかけていた、自分自身に。何度も、もうすぐ勇者を超える、俺達は、と思い、直ぐ後にそれを否定していた。否定したのは間違っているかもしれない。何度も、力、魔力も含めて、の上昇が頭打ちになった、支援魔法を発動時のパワーアップ率あるいは最大力が。それは、地力は増加して、パワーアップ率が低くなったり、どちらも頭打ちになってしまって、魔法力や持久力等の増加や体そのもの、力の容れ物である、の強化に回ったりしているようだった。パワーアップ率が増加、地力の増加、その他の要素の上昇、体そのものの強化の時期が交互にきていると想像していた。

 もう結びついて、支援魔法の発動とかいうものはなくなっていた。常時発動して、結びついているようだった。 それは副作用もどうよだ、とも思った。

「もう、こいつら以外に抱きたくなくなっているからな。」


 ニワ達5人は、美人だ。しかし、一万足らずの将兵の中にいる女の比率は高くない。それでも、ニワより美しいと思える女は、すぐに見つけられる。その程度の美人にしか過ぎない。確かに、あいつらより美人だな、俺の好みだなとは思っても、それだけだった。かつてのようなときめきはない。

「浮気性がなくなったと思えばいいのかもしれないな。」

とため息をつきながら、つぶやいた。


「ご命令の通り、魔族の本陣を壊滅いたしました。」

 ケンセキは、将軍の前に跪き報告した。

「後詰めの部隊と提携をしてきた魔族の部隊の支援のおかげです。」

 その後、彼は魔族の部隊と二千の騎士団とともに、魔王軍別働隊の後方から襲いかかり、何とか支えていたところを、救って、魔族軍を壊滅してくれた。あくまで、ケンセキは、将軍の指揮の下に戦ったという形をとって、彼女の体面を取ってくれた。“喰えない奴だ。”と思いつつも、“10年若ければ。”とも思っていた。

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