「追放しといて戻って来いって・・・まあ、戻るけどさ・・・」

確門潜竜

第1話 戻って来~いよ~お願い!

「こんなところにいた~!」

「捜したのよ~!」

「こんなところで何していたんだよ!」

「一緒に帰ろうよ~!」

「はあ?」

 ヨカン市の冒険者ギルド、部外者はかならずしも、そのようには呼ばないが、の集会所、居酒屋も兼ねているが、の夕暮れ、冒険者、これまた部外者はそのようには呼ばないことが多いが、達が仕事を終えて、ギルドに報告し、報酬の申告をした後食事や酒を呑み一日の疲れを癒しているときだった。ケンウン・ケンセキ、少し前にヨカン市にやってきて、同市の冒険者ギルドに登録したチームに属さず一人だけで仕事をこなしている男だった。彼も、食後のビール、上等のホワイト・エール、のジョッキを傾けていた、他の冒険者同様に。ただ、安酒を何杯も呑むことはせずに、上等な、好みの酒を一杯、美味そうに飲むことが少し異なっていた。たいして目立たない、なかなかやるな、と思われだした新参者にすぎなかった。その彼のテーブルに4人の女達が、ドスンと椅子を周りから持ってきて座り、彼に懇願し始めたのだから、周囲は好奇の目を向けていた。

「おいおい、君達は俺を追放したんじゃないか、チームから。今さらどうしたっていうんだ?」

 その言葉に、思わず顔を見かわした4人の女達は、彼が以前属していたチームの仲間であり、追放した、というより追放の際、反対をしなかった面々である。

 金髪で長身の元修道女魔法騎士マキ・ソウラ、銀髪の湖畔エルフ、エルフだけに弓手で精霊魔法が得意なセキ・コウ、聖槍使いの燃えるような赤髪のラン・ソウ、格闘家の猫耳獣人とのハーフ、ソウ・セキの四人だった。タイプは違うが皆実力はちゃんとあり、そして美人であった、一応は。

「やっぱり長い付き合いの仲間をあんな形で追い出したのは、後味が悪いでしょう?」

「そうそう、だからさ、仲直りしたいのよ。」

「悪かったと思っているのよ、だからやり直したいの。」

「昔どおりに仲良くやっていきたいのよ。」

"こ、こいつら嘘が下手だったんだ。なんだ、この台本の棒読みみたいなのは。まあ、立て板に水の嘘つきでも困るけど。"と思ったケンセキだった゜。そして、少しは虐めてやろうとも思った。

「別に、もう恨んでいないさ。何とか一人でやっていけているんだから、心配しなくていいよ。無理に戻ってきて、なんて気を利かせなくていいから。」

とわざと言ってやったのである。

 女達は無言で、互いの顔を見て頷きあった。

「リーダーね、いなくなったの。」

「は?」

「有名なチームから実力を評価されて、勧誘されて・・・私達を置いて行ってしまったの。カンロもついていったわ。他に一人。」

「あとね、死んだのが3人。やっぱり出ていったのが・・・。残っているのは、私達他1名。」

「新しく入った連中もほとんど出ていっちゃったのよ。」

「は、どうして、そうなったんだ?」

「あなたに関係しているわ。」

「どうしてだよ?」

 ケンセキは心外だという顔だった。女達はどうしようと言う顔だった。

 彼は手を挙げて、店員を呼んだ。そして、ワインと食事を4人前注文した。食事は高くないものばかりだったが、全てそれぞれ彼女達の好物のものだった。

「ちょっと。」

「俺のおごりだ。食事も、呑みもせずにここにいるわけにはいかないだろう。奥のギルドの事務所はもう閉められたしな。」

 その言葉に、涎を堪えるのが必死の彼女らには、断る術はなかったようだった。

 そして、事前に考えていた秘策を実行することを、彼女たちはすっかり忘れてしまったのである。

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