第35話 消灯後の校内

 応援合戦の練習を終えた風歌先輩が恥ずかしそうにお願いしてくる。


「ねえ、ついてきてもらっていいかな?」

「どこにですか?」

「……更衣室」


 え!?なんで!?

 まさか、そういう!?そういうことですか!?

 やばい!こういう場合はどうしたら!?


『鏡夜!これって!?これどうすんの!?』


 どうすんのって!?

 オレだって健全な男子高校生だ!そりゃもうそういったことには、興味はビンビンですよ!最近はエロゲーにも手を出し始めちまったわけですし……。

 いや、しかし、ここで狼になってしまったら今後のミッションが……くっそ!神様恨むからな!!


「ち、違うよ!そう言う意味じゃないよ!!もう消灯してて廊下とか暗いから!」

「え!?ああ、はい!わかってますよ、わかってます……」


 長い沈黙のせいで、オレの思考が読まれたか……。

 でも、風歌先輩もオレと同じことを考えたってことだよな。

 あー、そう言う意味ってどういう意味ですか?って聞いて反応見てみたかったな~。

 オレはしょうもないことを考えながらボディーガードを務める。


「あれ?」

「どうしたんですか?」

「更衣室が開かない」

「施錠しちゃったんですかね?」

「前は施錠されてなかったのに、どうしよ……」


 これってあれですか?

 オレが更衣室で暴れたからカギが掛けられるようになったとかそういうことですか?


「風歌先輩って家遠いんでしたっけ?」

「ううん。学校から自転車で20分くらい」

「じゃあ、そのまま帰ってもいんじゃないですか?」

「汗かいたから拭きたい」


 汗という言葉にオレの鼻が無意識に鳴ってしまう。

 その音を聞き、風歌先輩が赤面しながら慌ててオレから距離を取る。


「い、今嗅いだでしょ!?」

「へ!?いやいや、まさかね」

「本当は?」


 珍しい。

 風歌先輩が睨んでる。あんまり迫力ないけど。


「大丈夫です!香水って言われてもわからないいい香りなんで!」

『うわー、気持ち悪ー』

「なにそれ?ちょっと気持ち悪いよ」


 ちょっとした冗談じゃん!そんなジトっとした目で見なくても。

 オレMじゃないから、女の子からの気持ち悪いは普通にダメージになるからね!

 それと、キモーとかキモイならまだ笑ってられるけど、気持ち悪いはガチ感あってマジでダメージが大きい。

 ……にしてもやらかしたな……オレ、瀬流津のことがあってから汗の匂いに目覚めたのかもしれない。


「じゃあ、どっかの教室で着替えます?」

「そうする」


 オレと風歌先輩は風歌先輩の教室である二年三組へと移動する。


「オレ初めて上級生の教室に来ました。風歌先輩の席ってどこですか?」

「一番前。名前順だと阿雲は早いから。それより、着替えるから出て行って!」

「へいへい。じゃあオレ、誰か入って来ないように廊下で見張ってますから」

「ちゃんとそこに居てね?」

「置いてったりしませんよ。安心してください」


 消灯され、ピクトグラムの緑の光と非常ベルの赤いランプが照らす薄暗い廊下には誰の姿もない。

 静寂の中、風歌先輩が着替える衣擦れの音だけがオレの耳に入ってくる。

 なんかエッチだ。


『だいぶ風歌先輩と仲良くなってるけど、ターゲットは風歌先輩じゃなくて雷歌先輩だってわかってんの?』

「わかってるよ」

『それにしては仲良くなり過ぎじゃない?ちょっと前まであんなに「ターゲット以外は記憶が残るから出来る限り接触は避けたい」とか言ってたくせに』

「雷歌先輩攻略のためには風歌先輩と仲良くなる必要があるって説明しただろ?」

『でも、その雷歌先輩いないじゃん!』

「それは──」


 あっぶね。

 風歌先輩がいるんだ声のボリュウームは気を付けないと。


「覗かないでね!」

「我慢しまーす!」


 オレはテキトーに誤魔化す。


「そいつはここからだ。少なくとも体育祭が終わるまでには雷歌先輩への足掛かりは作っておく。まだ時間はあるんだ、問題ない」

『ならいいけど』


 トーカを説得したところで、風歌先輩の着替えが終わり、教室から出てきた。


「お待たせ」

「いえいえ」


 オレと風歌先輩は学校を出る。

 学校を出たところで、人影がパッと目の前に飛び出してきた。

 雷歌先輩だ。


「雷歌ちゃん!?」

「あんたたちこんな時間まで学校でなにやってたの?」

「なんだ雷歌ちゃんがここに!?」

「いつまで経っても風歌が学校から出てこないから待っててあげたんでしょ!で!?こんな時間までなにやってたの!?」

「鏡夜くんに応援合戦の練習に付き合ってもらってて……」

「こんな遅くまで?ほんとに?」

「ほんとだよ!」


 雷歌先輩相当疑ってんな。

 まぁ、そりゃそうか。年頃の男女がこんな遅い時間まで暗い学校の中で二人、疑うなと言う方が無理がある。

 もし仮にオレが、彩夜のそんな状況に出くわしたら、問答無用で相手の男の胸ぐら掴んでるだろうからな。


「ふーん。それ以外はなにもないのね?」

「なにもないよ」

「鏡夜は?」

「風歌先輩の言う通り、応援合戦の練習に付き合ってただけですよ」

「それ以外は?」

「なにも?」

「風歌が好きとかは?」

「……別に」


 なるほど。

 オレへの質問は風歌先輩の反応を見るためか。

 その証拠に質問した後、雷歌先輩はオレの方ではなく風歌先輩の方を見てた。姉妹ならでは反応とかがあるのだろうか?

 オレの角度では風歌先輩の背中しか見えないからなにもわからん……。


「鏡夜もこう言ってるし信じるわ!でも、こんな時間まで男女が二人きりってのはさすがに見過ごせないわ!ということで、明日からは私も参加するから!いい!?」

「え!?でも、応援合戦は本番までお互いに偵察は禁止って……」

「そんなの体育祭実行委員が盛り上がるためのルールでしょ!?守る必要なんかないわ!それに、私がそっちのやることを黙っていればいい話でしょ!?

 それともなに?私がその練習にいると不都合なことでもあるわけ?」

「そうじゃないけど……」

「なら、私が参加しても問題ないわよね?」

「……うん」

「鏡夜もそれでいい?」

「お二人がそれでいいんなら、オレは別に構いませんよ」

「じゃあ、決まりね!」


 やはり、雷歌先輩は風歌先輩に比べて我が強いな。

 あっという間に風歌先輩の意見を封殺してしまった。

 まぁ、雷歌先輩の意見がもっとも過ぎて、特に突っかかるところもなかったんだけど……。


「鏡夜の家ってどっち?」

「オレは電車です」

「そうなんだ!じゃあ、また明日ね!」

「またね」

「はい。また」


 オレと阿雲姉妹は学校の前で解散となった。



『よかったの?雷歌先輩の風歌先輩のことどう思ってるかって質問に対して、なんとも思ってないって返しちゃって?』

「正直迷った。

 阿雲雷歌の性格が予想通りなら焚きつける意味でも気になってる感を出した方がいいのかとも思った。

 ただ、予想と違ったらそん時が面倒だ。

 阿雲雷歌の攻略に踏み切れなくなる上に、下手したらオレが阿雲風歌に気があるという話が校内に広まってしまう可能性もある。

 できればじっくりと思案する時間が欲しかったが、あの状況で迷ったらそっちの方が面倒になることは目に見えてたからな。

 とりあえず、リスクの少ないと思われる回答をした」

『雷歌先輩が練習に参加するのも問題ないの?』

「問題ないどころかオレとしては好都合だ。阿雲雷歌には出来る限りオレと阿雲風歌が仲良いところを見せつけて対抗心を煽った方がいいからな。むしろ、阿雲雷歌の目の届かないところで練習するより進展が早いんじゃないか?」

『そっか!たしかに……』


 さて、明日から本番だな。

 オレと雷歌先輩のどっちが相手を本気にさせられるかの堕とし合いだ。つっても向こうはオレがそんなこと考えてるとは知らねんだけどな。

 それと、後で子犬を育てるゲームでも探すか。

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