初恋強盗
御神大河
第1話 ミッションスタート
交通事故に遭うことは不運で不幸で恐ろしいことのはずであった。
しかし昨今そのイメージが崩れつつある。
やれタイムスリップだ、特殊能力に目覚めるだ、別世界だと、新たなそしてより素晴らしい人生へ突入するイベントとなりつつあるのだ。
実際、オレこと
目が覚めるとオレはベットに寝ていた。
まさに知らない天井である。
体を起こし、ぼやける視界を擦りながら辺りを見渡す。
白い天井に仕切りとなる白い布、電気はついておらず光源は窓から差し込む月明かりとチカチカと点滅するナースコールボタンのみ。
異世界転生してねーじゃん!!
どこからどう見ても現代の何ら変哲もない病院です、ありがとうございます!
まぁ、そうだよな。普通に考えて異世界転生とかあるわけないよな。
『おっ!気が付いた?おーい!おーい!』
若干の落胆と体に異常がない安心を享受していたオレの頭上から声が聞こえる。
看護師さん?にしては方向が……。
オレは声がする方へと視線を上げる。
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
オレの目の前には女の子がいる。
見た目は同世代かちょっと下くらいだろうか?正直言ってかわいい。
真紅の髪にアメジストのような美しい瞳、小さな口から覗く八重歯が見た目を若干の幼くしている。しかし、身体つきは決して貧相ではない。
まぁ、ばるんばるんと言うほどでもないが……。
ってそんなことはどうでもいい!!
その女の子は立っているのではない!プカプカと空中に浮遊しているのである!
『ちょっと!大きい声ださないでくれる!びっくりするじゃない!』
「は?え?幽霊!?」
『幽霊!?どっからどう見ても天使でしょ!見なさい、この高貴な翼を!』
そう言いながら自称天使は背中の翼を見せつけてくる。
確かに天使の背に生える翼の形状をしていることは間違いない。だが、色が黒い。そして小さい。
「いや、黒いし小さいしで形以外悪魔みたいですけど」
『しょうがないでしょ!堕天しちゃったんだから!』
「しちゃった?なんで?」
『それは……うるさいわね!別に何でもいいでしょ!!それよりも、自己紹介がまだだったわね。アタシの名前は
いきなりだな。
こういうのは大概面倒事なんだよな~。
内容聞いてないけど、すげー断りたい。
とは言え、堕天してると言っても天使だ。お願いを断って神罰とかもっと面倒そうだし……。
はあ~、とりあえず内容聞くか。
「何ですか?」
『あんた今度から高校生でしょ!』
「そうですけど」
『高校生と言えば恋愛じゃない?』
「違うと思いますけど」
『だからね──って違うの!?』
おや?予想外って感じ?このまま上手いこと断れたり?
『まぁいいや!あんたに決めちゃったし!』
断れないんかい!
『あんたには女の子たちの初恋を実らせてあげて欲しいの!』
「初恋?恋のキューピットになれってこと?」
『そう!ホントはアタシの仕事だったんだけどサボってたら力を失っちゃったのよね?』
堕天した理由、職務怠慢かよ!
大丈夫か、この天使?ほんとに天使か?
けどまぁ、ふわふわと浮いてるし、翼も偽物じゃなさそうだし……オレのことも知ってるっぽいんだよな……。
『なによ?』
「……オレが高校生になるって知ってるんですよね?」
『当然でしょ!天使なのよ!』
「てことはオレの周囲の人間のほとんどが高校生になるってことも理解してますよね?」
『当たり前じゃない!』
「高校生で初恋がまだって奴はいないんじゃないですかね?特に女の子はアイドルとか俳優とかにキャーキャー言ってますし」
『憧れと恋心は別物よ!キャーキャー言ってたって恋心になってるとは限らないじゃない!そういう子に限って理想が高くて初恋がまだだったりするんじゃない!?それに、そうじゃなくても初恋がまだの子はいっぱいいるわよ!』
「なんか適当だな……」
『うるさいわね!大体あんただって初恋まだじゃない!!』
「オレのことは関係ないじゃないですか!?」
『それに、別に高校生にこだわる必要はないわよ!中学生や小学生でもいいんだから!』
「話しかけた時点で事案になるわ!!」
てか、初恋を実らせるとかめちゃくちゃ難易度高いじゃん!
ただの人間が恋のキューピット役とかただのお節介だろ!絶対無理!!
そもそも、もっと他に適任がいるだろ!
「なんでオレがそんなこと……」
『理由が知りたいの?』
やっべ声に出てた!?
まぁもう声に出しちゃったし別にいいか。
「そうですね。オレが選ばれた理由もやらなけらばいけない理由もわからないです。簡単なものならまだしも難易度も高いし」
『いいわ!説明してあげる!あんた今日トラックに轢かれそうになったでしょ?』
「そうですね。ん?……轢かれそうになった?轢かれたじゃなく?」
『あんたは轢かれてないわよ。トラックぶつかりそうになった時、同い年の子があんたを突き飛ばして助けたからね』
轢かれてない!?助けてくれた子がいる!?
「その子は?……どうなったんですか?」
『あんたの代わりにトラックに轢かれて目覚めてないわ』
全身から血の気が引き、喉が渇く。
体温が一気に下がるのがわかる。
過去に戻って、転生してないとかアホなこと考えてた自分を今すぐぶん殴ってやりたい。
『でも命に別状はないわ』
「ほんとですか!?」
『今のところはね』
「今のところ?」
『そう!アタシの力で天界に召されるのに待ったをかけてるの!で!あんたに依頼。その子が助かる条件はアタシが本来の力を取り戻すこと。そのためには、女の子の初恋を成就させる必要があるの!それに、あんた背が高めでスタイルもいい方だし、容姿悪くないでしょ!人選としては悪くないかな~って!まあ、目つきはちょっと悪いけど。納得した?』
目つきに関しての一言は余計だろ。
とは言え、やるしかないな。
助ける手段が提示されてるってのに命の恩人を見捨てるなんてありえない。
『まぁ、冗談なんだけど』
「は?」
『いや、だから女の子が代わりに轢かれたとかは冗談よ!だからそんな思いつめた顔しなくていいわよ』
「おい!」
やばい、こいつのしてやったり顔すげーぶん殴りたい!
天使とか名乗ってるけど冗談の種類が悪魔のそれだろ。しかも、よくそんなウソがスラスラと出てくるな。こいつホントに天使か?
それにオレ自身こいつの言った通り初恋もまだなんだぜ。
そんな奴が恋のキューピットとか──
「オレには難しいと思うんだが……」
『大丈夫よ!心配いらないわ!アタシがサポートしてあげるし!だから、お願い!!』
また声に出てたか。
て言うか、そんな目で見てくるな!近い近い近い近い!
まぁ、神の使いたる天使がただの凡人のオレに悪い冗談を言ってまでお願いするくらいだし、相当困ってんだろうな……。
「はあ~しょうがない!」
『受けてくれるの!?』
「ああ。あんたの依頼受けてやるよ!」
オレとトーカはガッチリと握手する。
<パートナー契約が成立しました。パートナー名:湾月鏡夜。ペナルティーが共有されました>
「え?なに今の!?頭の中で何か聞こえたんだけど!」
『気にしなくていいわ。アタシとパートナーになったからアナウンスが流れただけよ』
「なるほど……じゃないけど!てか、そんなことよりペナルティーとか聞こえたけど!?」
『気にしなくていいわ!』
「おいこら」
『……一定期間ハートマークに変動が見られない。または、目標値の初恋を成就させられなかったら、あんたは死亡、アタシと地獄行きになるわ!まぁ達成すればいいんだし、関係ないわよ!』
「死亡!?ふざけんっ──」
『まだ説明の途中!!右脇腹を見なさい!』
トーカの圧に押されてオレは右の脇腹を見る。
え?脇腹に趣味の悪いハートマークが浮き上がってる!?
触ってみたが特に異常はない。
『そのハートを初恋ポイントを貯めて満タンにすれば目標達成よ!』
「初恋ポイント?」
『初恋ポイントはあんたが誰かの初恋を成就させたら貯まるものよ。それくらい説明なくてもわかるでしょ!?』
なんでこいつは上から目線なんだ?
そっちがお願いしてる立場だよな?
「普通こういうのは事前に説明するよな?」
『……』
「隠してたな!?」
『言い忘れてただけよ!』
「今すぐパートナーの解消を要求する!」
『無理ね!契約受理された時点で目標達成まで契約解消はできないわ!やるしかないのよ、諦めなさい!』
「ふざけんな!この悪魔ーーーー!!!」
こうして、自称天使と出会ったオレ湾月鏡夜の地獄の義務恋愛高校生活がスタートした。
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