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目次
牧場労働者
下東 良雄
俺は牧場労働者
牧場主から命令された
草刈りしろと命令された
牧場主には逆らえず
俺は素直に頷いた
眼前（がんぜん）に広がる雑草の茂み
どこまでも続く雑草の茂み
俺は空から舞い降りて
見えない炎で燃やしていった
広大な茂みは燃え尽きぬ
焼いても焼いても燃え尽きぬ
今日も空から舞い降りて
燃やし続けた十年間
それでも茂みは燃え尽きぬ
牧場主もしびれを切らし
命令取り消し解雇となった
牧場主がやって来た
血相変えてやって来た
「見えない炎を消してくれ」
俺はニヤリと笑ってやった
見えない炎は消えはせぬ
何をしたって消えはせぬ
やがて炎は延焼し
ひとの生命（いのち）を焼くだろう
見えない炎は消えない炎
消えない炎は見えない炎
やがて炎はすべてのひとの
生命（いのち）を燃やしていくだろう
私はテレビのアナウンサー
今この国で起こってる
大変なことが起こってる
延焼していく見えない炎は
産まれる生命（いのち）も燃やしてた
壊れた生命を目の前に
母は気が触れ泣き叫ぶ
これは悪魔のいたずらか
炎に包まれ燃え上がる
生命（いのち）が冒涜（ぼうとく）されていく
炎を探してライトをつける
ライトをつけても炎は見えぬ
その間にも生命（いのち）は燃える
炎の前に生命（いのち）の価値は
どこまでも希薄になっていく
空からゆっくり舞い降りて
見えない炎を身にまとう
オレンジ色の作業着で
消えない炎を身にまとう
ひとはみんな忘れてる
過去のことだと忘れてる
見えない炎は燃えている
今でもずっと燃えている
俺を決して忘れるな
オレンジ色の作業着の
炎を決して忘れるな
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