第3話 砂漠の街でお宝探し
私達は今、周囲を砂漠に囲まれた街にいる。この街のどこかにお宝があるっぽいんだけど、それがどこにあるのかはさっぱり分からない。
そりゃ簡単に見つかったらお宝とは言えないと思うけど、それにしたってヒントとかないのせめて。せめて~。
「うがぁ~」
「急にどうしたホ?」
「本当にこの街にお宝があるのォ~?」
「もう一度地図を確認するホ」
トリの助言に従って、私はもう一度地図を広げる。文字が一切書かれていない図形だけの地図だ。この地図の中にヒントがあるはずだとトリは言いたいのだろうけど……。
「うん、分かんない」
私は考えるのを放棄して、近くにあったベンチに座り込む。ああ、砂漠の街だけあって陽射しが強いなぁ。どうしてこうなっちゃったんだっけ――。
きっかけは……。そうだ、私宛に謎の手紙が届いたんだ。差出人不明で謎の外国語で書かれた手紙。切手も消印もない。怪しさしかないよね。
でもポストからこれを見つけた時、何故か自分宛てだなってすぐに分かったんだ。直感、いや第六感かな。
「ねぇ、この手紙は何だと思う?」
「取り敢えず中を確認するホ」
「でも日本語で書いてなかったら読めないし」
「封を切らないと話が進まないホ」
トリに急かされて、私は手紙の中身を確認する。すると、入っていたのは文字の書かれていない地図1枚だけだった。私がこの地図を見ていると、トリが強引に覗き込んでくる。彼が地図に触れた瞬間、私達は夜の砂漠に転移していた。
景色が変わった事で、私は地図を手にしたまま大きくため息を吐き出す。
「またこのパターンなの?」
「取り敢えず、あの灯りのあるところまで行くホ」
夜で暑くないとは言え、そこは砂漠。迷うと命の危険もある。ただ、運が良かったのかすぐに人工的な灯りが目に入った。私達はすぐにそこを目指して歩き出す。どうかオアシスの幻ではありませんように。
「ようこそ。お待ちしておりましたわ」
灯りのもとに辿り着いた私達を待っていたのは、アラビアンな感じの服装の占い師っぽい大人の女性。どうやら私達を待っていたらしい。占いで来るのが分かっていたのかな?
「えっと……」
「あ、申し遅れました。私は占い師のフフゥ。何でも占いますよ?」
「えっと……」
「じゃあ、この地図について占って欲しいホ!」
私がまだ事態を飲み込めていない内に、トリが勝手に話を進める。この抜け駆けに、私はその丸っこいフワフワの体をギュッとつねった。
「何勝手に……」
「地図にはお宝が示されているはずホ。占いでそれが分かれば今回は楽勝ホ!」
「それもそっか」
一度転移したらお宝の事が分かるまでは戻れない。私はトリの言葉にうなずき、フフゥさんに地図を見てもらう事にした。
「この地図によると、お宝はこの街にあるようですね」
地図を目にしたフフゥさんは、一瞬で私達の知りたい事を教えてくれた。流石は占い師。頼りになるね。
彼女の示した場所は、今私達がいるオアシスから目と鼻の先だった。歩いて10分くらいの場所だそうだ。
「でも今夜はもう遅いですし、私の予備のテントでお休みください」
「えっ?」
「あなた方が来るのが分かっていたので準備していたんです。遠慮なさらず」
こうして私達はフフゥさんの好意に甘え、その夜はテントに泊まる事にした。中は結構広く、寝袋ではなく天蓋付きのベッドまで用意されている。
ちょっとしたセレブな気分を味わいながら、私はすぐにベッドに潜り込んだのだった。
「早く起きるホ! すぐ出発ホ!」
トリに起こされて私達はテントを出る。朝焼けがまぶしい中、フフゥさんが朝食を用意してくれていた。
「おはようございます。今日は宝探しに向かうのですよね。最後に朝食を食べていってください。お口に合えばいいのですが」
「フフゥさん、何から何まで有難うございます」
「これも縁ですから」
フフゥさんはフフと軽く笑うと、用事があるからとまたテントに戻っていく。本当に不思議な人だ。朝食のパンとスープとサラダを食べて元気100倍になった私達は、そのまま街へと向かった。徒歩10分くらいなだけあって、オアシスからも街の姿が見える。
うん、ここまでは順調だったんだよねえ――。
「水穂、いつまで休んでるホ! 早く来たのにこのままだとまた夜になってしまうホ!」
「この街にお宝なんてないよ。多分フフゥさんの占いが間違ってたんだって」
街に着いた私達は懸命にお宝を探した。色んな人に聞いたし、ぐるぐると歩き回ってもみた。それで手がかりがひとつも掴めないのだ。私はもうすっかり疲れ切っていた。
「大体、そもそも何であんな手紙が……」
「そこは考えたら負けホ」
「もうお宝なんていいよ……」
「あきらめたらそこで試合終了ホ!」
お宝に執着のあるトリは、何とかして私を動かそうとする。逆に言うと、私はそのお宝にほぼほぼ興味がない。いつも強引に不思議な世界に連れてこられるのだ。やる気なんて起きるはずもなかった。今の私を動かしているのは、未知の世界への好奇心だけ。
真剣な眼差しで私をじいっと見つめるトリの顔を、私は気の抜けた顔で眺める。
「大体、どんなお宝かも分からんのに」
「願いが叶うホ」
「え?」
「お宝ってそう言うものホ」
願いが叶うお宝。お宝の設定としてはベタな方だ。普通なら、この手の話はただの戯言として軽く流す事だろう。私だって信じない。
でも、実際に異世界に転移するような事態になったら話は別だ。もしかしたら、そのお宝を手に入れられれば本当に――。
「どんな願いでも叶うの?」
この独り言のようなつぶやきに、誰かが反応する。
「そうだね。だからお宝なんだ」
「え? 誰?」
その甘い声に私の意識は覚醒する。すぐに声の主を探そうと顔を左右に動かしたものの、私の目の前は黒猫しかいなかった。
「にゃぁん」
黒猫は私と目が合うと一声鳴いてトコトコと歩き始める。そうして、建物の影に隠れて姿を消した。もしかして……。
「あの猫だ!」
「急にどうしたホ?」
「トリ! 行くよっ!」
私はさっきの黒猫を追いかける。トリはワンテンポ遅れて着いてきた。建物の影の先に向かったところで、猫はもうどこにも見当たらない。それでも、私はその後に猫が向かったであろう場所を想像して走り続ける。
「本当にこの道で合ってるのかホ?」
「私の第六感が叫んでるの! この先に何かがあるって!」
走って走って角を曲がり続けて、辿り着いた場所は行き止まり。この街特有の赤茶色のレンガの壁が、人生の試練のように私達の前に立ちはだかっていた。
これ以上は進めない事が分かって、トリは私の肩にとまる。
「勘、外れたホね」
「うっさいな。でも私の第六感はここでいいって言ってるんだ」
「何か仕掛けがあるって言うのかホ?」
「あるんだよ。いや、あって欲しい……」
私は一縷の望みにすがって周辺を調べ始めた。足元を調べ、壁を調べ、そして正面の壁に手をついた時だ。その手がフワッと空を切る。
「ここだ!」
その壁は見せかけだけのものだった。私はそのまま壁の向こうに向かって足を伸ばす。私が壁抜けする姿を見て、トリもまた遅れてついてきた。
見せかけの壁の中は真っ暗で、私達はまたしても自分の第六感を信じて歩き続ける。やがて突然視界は開け、宝物庫のような場所に辿り着いた。
「嘘……本当に見つかったよ」
「水穂、ボク達が探していたのはアレだホ!」
トリが指し示した場所には大きな宝箱があった。華麗な装飾がなされていて、いかにもすごいお宝が収められていそうな雰囲気だ。
私は、願いが叶うお宝があの中にあると確信して目を輝かせた。
「やた!」
「よく見つけてくれました」
「え?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはいつの間にかフフゥさんがいた。彼女は私と目が合うと深々と頭を下げる。思わず私も釣られて頭を下げた。
「ありがとうございます。これでやっと国を救えます」
「えっと、どう言う事?」
真相を聞こうとしたところで、私の意識は遠くなった。視界が暗くなり、立っていられなくなった私は前のめりに倒れ込む。硬い石の床に倒れたはずなのに、衝撃は伝わってこない。それどころか、柔らかく懐かしい感触に包まれていた。
「あれ?」
その違和感に目を覚ますと、いつの間にか私は自分の部屋のベッドの上に寝転がっていた。勿論トリも一緒だ。彼もまた私と同時に目覚めたらしく、しばらくはキョロキョロと顔を動かして目の前の現実をしっかりと確認していた。
そうして、何が起こったのかを理解出来たところでその小さい翼で頭を抱える。
「あの占い師に利用されてしまったホー!」
「まぁでも、フフゥさんの願いが叶ったなら私はそれでいいや」
「水穂はお人好しすぎるホーッ!」
今回もまたお宝は手に入らなかった。でも今はそれでいいやと、私はそう思えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます