お昼休みと弁当の関係

「それじゃあ、キリがいいし今日はここまでにするか」


そう言って先生はチョーク置き、号令を促す。委員長が号令をかて授業が終わると教室は弛緩した空気が流れる。なぜなら午前の授業は終わり昼休みに入る。


「なあ睦月。ノート見してくれ」


さっきの数学の授業を睡眠学習に注いだ奴がいつの間にか買ったのか焼きそばパン片手に言ってきた。


「はあ・・。何を言っても無駄ってことはわかっているから今更か。さっさと返せよ」


そう言ってさっきの授業のノートを大内に渡す。喜んでいる大内を横目に昼の用意をする。いつもはこうして四人で固まっているが大内と日向は学食で鶴見は演劇部と食べることが多い。俺は、パンを持ってきているし昼休みは一人で食べる。今日もいつも道理場所で食べる前にやることがある。


そう、翠さんからのおねがいだ。何度かこういうことはあったから別に難易度は低いんだけど。予め香乃にはこういう時のために俺がいつも昼を食べている所を教えているし、念のためだけどそこに来るように休み時間の間にメールを送ったし大丈夫なはずだ。俺は、自分のカバンからサッと自分のと香乃の弁当を取り出しいつも場所に向かう。教室練からでて実習練に行き第二図書館の方向へ。第二図書館周辺は普段使われることがあまりなく人通りはほとんどない。第二図書館を通り過ぎ、奥のドアを開けるとベンチとテーブルが置いてあるこじんまりとした空間が現れる。ここが人が来ない俺のお気に入りの場所だ。見つけたのは一年のちょうど今頃。始めは、誰か来るかと思っていたが全然来ない。二年になった今でもそうなんだから恐らく俺と香乃以外知らないだろう。香乃も普段は部室で食べているし使っているのは俺ぐらいだ。


俺は、さっそくベンチに座り香乃の弁当を横に置き袋からパンを取り出す。今日はクロワッサンにスクランブルエッグとチーズを挟めたやつと王道のハムと野菜パンだ。香乃がまだ来てないし先に食べよう。先にどっちを食べようか。・・・ハム野菜にするか。ラップをサッと外しパックといただきます。自分で作って言うのもあれだけどおいしね。無駄にパンばっか食べてないから。からしがいい仕事をしてくれている。ちょうどパンを半分ぐらい食べたときにドアの向こうからタッタと軽い足音が聞こえてきた。昼休みが始まってからちょうど五分たっていた。ガチャと言う音がなりドアが開く。


「ごめん、弁当ありがとう。待ったでしょ~」

「待っている間に食べてたしな」


そう言って俺がパンを見せる。


「そこは今着たところじゃないの?わたしはなるくんがこんな感じなのは気にしないけど気遣いがないと他の女の子に嫌われるよ?」


香乃はいたずらっ子みたいな顔でそう言う。



「あいにくと、そんな予定はない。女子で話すのなんか香乃ぐらい・・いや、香乃しかいないな」


そもそも学内で話す人なんて片手で足りる。大内、日向、鶴見だろ・・・。上げると悲しくなってくるな。まあいいや。俺がそう言うと


「そっか~。うんならよかった」


どこに上機嫌になる要素があったかわからないが機嫌がいいならまあいいかと横に置いといた。香乃は当たり前の事のように俺の隣に腰を降ろす。が・・・


「香乃、近づきすぎなんだけど」

「そうかな?」


そうだと思います。少し動かすと肩同士があたるくらいの距離。近いせいか女の子特有のいいにおいが春の風に乗せられてこっちに来る・・てこれ以上はまずい。いくら小説風に言ったとしても思考がそっちに行くのはまずい。取り敢えず・・・


「俺ならまだいいけどほかのやつにはあんまり近くなるなよ。危ないから」


忠告だけはしておこう。大切な幼馴染が傷つくのは嫌だからな。


「大丈夫だよ。なるくんじゃないとこんな風に座らないもん」

「そう言う問題?」

「うん」


香乃は満面の笑みで強く頷いた。


「まあ、それならいいのか?」

「うんうん。それよりもまずはお昼ご飯を食べようよ」


お腹がすいちゃったと香乃は弁当お開ける。中身を見ると俺とは違いバランス良い弁当だった。互いに授業とかクラスのことを話しているうちに俺は、食べ終わりボーと空を見上げながら次の脚本やらストーリーを考えていた。童話をリメイクするか・・・ガラッと変えてコメディにするか・・・


「くん・・なるくん!」

「あ、ごめん。どうした?」

「集中すると周りの音が聞こえなくなるの悪い癖だよ」

「あー悪い。つい気が緩んで」

「む~。許さぬ。ほらあーん」


あーん?何ですかそれ。目の前にはツナサラダを箸で挟んだ香乃が・・・。マジですか食べろと?いやあの恥かしいんですが・・・。


「ほら早く食べて」


香乃にせかされる。よく見ると自分のやっていることが分かったのか香乃も恥ずかしがっているようにも見える。自分で言って恥ずかしがるな。俺も余計恥ずかしくなる。さっきまで木々を揺らしていた風もやみ、ここだけの時間が止まったように感じる。落ち着け俺。これは、小説に生かすためだ。俺は、意を決してツナサラダを食べる。自己暗示なんかの意味もなくツナサラダの味なんか一切しない。これを公衆の面前でするカップルは鋼のメンタルだと思った。


「どう?おいしい?」

「いや。そもそも味がわからない」


どうにかお返しをしなければと何かないかと探すがあいにくぱんは食べ終わってしまった。仕方ない。俺は、香乃が飲み物を飲んでいる隙をサッとついて弁当と箸を奪う。


「あっ」


と香乃が気付くが遅い。もう二つとも俺の手にある。野菜はもうなくなっていて後残すは玉子焼きとシュウマイだった。


「はい、あーん」


自分でやろうと思ったがこのセリフも充分恥ずかしい。香乃は目を俺とシュウマイとを交互にいききしていた。お返しされたのが悔しいよりもそんな事より今この状況が恥ずかしいのか顔を赤くし潤んだ上目遣いで俺見つめる。俺は、この行動より香乃の表情に顔を赤しそうになった。


香乃の顔が近づく。じっとシュウマイを見ると小さいつやつやした口がサッとシュウマイを飲み込む。香乃はよく噛んで飲み込んだ後


「なるくん。これは、禁じ手にしよ」



俺は、無言で頷きサッと弁当と箸を返す。


この後若干微妙な空気になったが昼休みを終えるころには元に戻っていた。




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