第2話 異世界に召喚されました1

 雲一つ無い青空の下、勇者サイトウは、民衆の歓声を浴びながら胴上げされている。

 ここまでの話を読んだ者は全員、こう思っているはずだ。

 『なぜ、元無職が勇者をやっているんだ!!』と。

 話は斉藤が家が取り壊されたとこから始まる。

  

 雲一つ無い青空から発せられる直射日光。

 直射日光に照らされて光り輝くクレーン。

 そして、クレーンに破壊されていく斉藤家。

 衝撃的な光景に彼は手に持っていたコンビニの袋を落とした。

「……………おい、嘘だろ」

「家、取り壊すことにしたから、あんたもいい加減仕事しなさいよ」

 斎藤 暇人さいとう いとまびと、32歳、親の脛を囓って生きてきたニート。

 (たった今、囓る脛が、取り壊されました)


 「これから、どうしろっていうんだよ…………」

 ビル群から反射される熱光線が、斎藤の生命力を奪う。彼はおぼつかない足取りで、本日の寝床を探し歩いていた。

 (全財産はたったの17円。うまい棒をいつ食べるのかが問題だ。あー!!しくじったー!!こんなことになるなら、コンビニで無駄遣いするんじゃなかったぜ!!)

 「うおっ」

 視界が反転する。斎藤が気が付いたときには、完璧なスライディングで、建物と建物の隙間に滑り込んでいた。

 「痛ってー」

 上体をあげると、そこにはゴミ箱が置いてあるいかにもありげな路地裏と、彼の足元にバナナの皮があった。

 (誰だよ、こんなとこにバナナの皮捨てたのは!!突然ホームレスになるし、今日は厄日か何かだろ、絶対!!)

 立ち上がろうとしたその瞬間、斉藤の動きがピタリと停止する。

 「今、地面が歪んだ……?」

 ゴシゴシと目を擦ってみる。変化なし。

 (俺も、疲れてるんだな!!まぁ、コンビニから帰ると家が無くなってたら、そうなるか。でも、ビルは歪んでなかったような……………考えるのやめよう)

 その瞬間、何もなかったはずのアスファルトから突如、虹色に輝く液体が湧き出した。

 「………………………なんだ、これ……」

 それは、シミのように広がり、地面を地面では無い物質に書き換えていく。

 シャボン玉液のような光沢を放つ、スライム状の物質に成り果てた地面は、ゴミ箱をゆっくりと呑み込んで、どこかへ消してしまった。

「来るなッ!!こっちに来」

 2度目の尻餅をついてしまった斉藤が、必死に逃げようと手足を動かそうとした0.01秒後。

 斉藤が体を動かすより先に、水面が斉藤を飲み込んだ。


 目を覚ますと、斉藤は光に包まれたこの世の者とは思えないような場所にいて、この世の者とは思えないような美貌の持ち主に顔を覗き込まれていた。

 「起きましたか」

 「えっ。俺、死んだ?」

「生きていますよ。それから、あなたには勇者になって異世界を救ってもらいます」

「えっ。俺、死んだみたいだな……」




 

 

 

 


 

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