コンビニから帰ったら家がなくなっていたニートが異世界で勇者になったので、外面と図々しさで異世界に居座り続けます。
ただの工業高校生
第1話 異世界に居座り続けます
ユウモト暦666年5月13日。
ユウシャモトメール王国の王宮広間一帯に押し寄せた全国民は、歴史的瞬間を目撃しようとしていた。
彼らの視線の先には、冠をかぶった男と、その男に恭しく跪く一人の騎士がいる。
「勇者、サイトウ」
「国王陛下ッ」
(勇者辞めさせて下さい勇者辞めさせて下さい勇者辞めさせて下さい、ニート生活させて下さいニート生活させて下さいニート生活させて下さい、勇者辞め………以下略)
「異世界から舞い降り、この世界を救った其方の名は、後世でも語り継がれることであろう。その功績を称え、本日を以て勇者の職から解放することを宣言する!!」
(ヨシッッッッ!!どうやら俺の切なる願いが国王にも届いたようだ。今こそ、もとの世界からの夢を叶えるとき。異世界で英雄になった俺は、全無職が憧れるエリート無職ライフを送るのだ!!)
「陛下。私……」
(こんなに幸せでいいんですか?)
「全く関係の無い其方の時間を奪い、巻き込んでしまったこと、本当に申し訳なく思っている」
(いや、時間を奪い言っていっても、俺が召喚されてから、まだ4ヶ月しか経ってない。もと無職の俺からしたら、食べて、寝て、ゲームすれば一瞬で過ぎるくらいの時間で、ニート生活が保証されるなら大儲けってもんよ)
「今日を逃したら、次に次元の扉が開くのは、いつか分からない」
(ん?んん?んんん?んんんん?扉って……………ひょっとして、俺が落ちた異世界につながるワープホールみたいなやつのことか!?さては、この王様、俺のこと、もとの世界に帰すつもりだろ!?!?いや、国の英雄を追い出すなんてこと絶対しないはず!!っていうか、そう思いたい!!)
「………………陛下、実は私」
(殿下、実は俺のこと追い返そうとしてます?)
その瞬間、2人の目の前にある空気が歪み、湖のような空間にビル群が写し出された。
目を疑うような光景に、王宮広場全体が鎮まる。
(悲報。俺、本当に帰されてしまうようです)
「…………これが、其方のいた世界か」
国王は自分に跪いている勇者とビル群を見比べたあと、優しげな表情で笑った。
(やめろっ。いい映画のラストシーンみたいな雰囲気出すな!)
国王が勇者に手を伸ばす。
勇者は自分を見上げる民衆を見渡した。
(やめろっ。民衆が泣き始めただろ!!)
「立て、勇者サイトウよ。其方がいるべき世界へ戻るときだ」
(もとの世界に戻っても、家取り壊されて、行く当てねぇんだよ!!!!家族にさえ嫌がられていた無職の俺が、異世界では民衆の歓声を浴び、合法的にニート生活出来るんだぞ!!今更、帰ると思うか?お前がこの生活を邪魔するって言うなら、こっちも受けて立つぜ!!)
勇者が国王の手を取る。
そのあと勇者は、ふっ、と息を吐いてから静かに立ち上がった。
(さあ、反撃の時間だ!!)
「陛下………実は私、陛下に言わなくてはいけないことがあるんです」
「なんだ?」
(啖呵を切ったはいいが、どうやって言い逃れればいいんだ!?逃げてもどうせ捕まるし、病気とか言ったらアイツら、治療薬開発してきそうなんだが!!)
「実は、」
「実は?」
(やばいっ、この先の台詞、何も思い浮かばねぇ!!)
「私、」
「私?」
(あー!!こんな時に限って俺のハッタリしか言えない病が治ってしまうとは……)
「あの……」
「なんだ。早く言え」
(時間稼ぎもここまでか……。もう、腹括るっきゃない!!)
「実は、私、もとの世界には帰れないんです!!」
「え?」
その直後、国王を含めた全国民の叫びが異世界全域にこだました。
「サイトウ!!一体、どういうことだ!?」
「こっ、こんなに心優しい民と国王を置いて、異世界に帰るなんてこと、私には出来ません!!皆さんと共にこの世界に残りますっ!!」
(どうだ?行けるか?行けてくれ!!頼む!!)
「……………サイトウ!!なんて優しい心を持っているのだ!!」
(これは、上手くいったんじゃないか?)
「皆のもの、勇者サイトウを胴上げするぞ!!」
「え?」
(なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ?)
「勇者サイトウ、バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」
「声が小さい!!」
「バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」
(ハハッ………今日は快晴か)
勇者、サイトウ。
彼の名は、異世界に居座るためには手段を選ばない、別の意味で伝説の勇者として後世に語り継がれることとなる。
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