帰って下さい、勇者様!!
ただの工業高校生
第1話 1(1-2と併せてよんでほしい)
ユウモト暦666年5月13日。
ユウシャモトメール王国の王宮広場一帯に押し寄せた全国民は、歴史的瞬間を目撃しようとしていた。
彼らの視線の先には、冠を被った男と、その男に恭しく跪く一人の騎士がいる。
「勇者、サイトウ」
「国王陛下ッ」
「異世界から舞い降り、この世界を救った其方の名は、後世でも語り継がれることであろう。その功績を称え、本日を以て勇者の職から解放することを宣言する!!」
「陛下。私……」
「全く関係の無い其方の時間を奪い、巻き込んでしまったこと、本当に申し訳なく思っている。今日を逃したら、次に扉が開くのは、いつか分からない」
「………陛下、実は私」
その瞬間、2人の目の前にある空気が歪み、湖のような空間にビル群が写し出された。
目を疑うような光景に、王宮広場全体が鎮まる。
「…………これが、其方のいた世界か」
国王は自分に跪いている勇者とビル群を見比べたあと、優しげな表情で笑った。
国王が勇者に手を伸ばす。
「立て、勇者サイトウよ。其方がいるべき世界へと戻るときだ」
勇者は自分を見上げる民衆を見渡した。
勇者が国王の手を取る。
そのあと勇者は、ふっ、と息を吐いてから静かに立ち上がった。
「陛下………実は私、陛下に言わなくてはいけないことがあるんです」
「なんだ?」
「実は、」
「実は?」
「私、」
「私?」
「あの……」
「なんだ。早く言え」
「実は、私、もとの世界には帰れないんです!!」
「え?」
その直後に響き渡る国王を含めた全国民の叫びが異世界全域にこだました。
「サイトウ!!一体、どういうことだ!?」
「こっ、こんなに心優しい民と国王を置いて、異世界に帰るなんてこと、私には出来ません!!皆さんと共にこの世界に残りますっ!!」
「………サイトウ!!なんて優しい心を持っているのだ!!皆のもの、勇者サイトウを胴上げするぞ!!」
「え?」
「バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」
「声が小さい!!」
「バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」
勇者、サイトウ。
彼の名は、異世界に居座るためには手段を選ばない、別の意味で伝説の勇者として後世に語り継がれることとなる。
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