第8話スキルの実演
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保管庫を出た後は教室に戻るのではなく、もう授業時間が終わるにも関わらず休み時間すらも与えられないでそのまま外へと連れて行かれた。
外と言っても学校の敷地内であることは間違いなく、いくつかあるうちのグラウンドの一つだ。
学校案内の時にも来たが、ここはスキルを訓練するための場所。これからここで覚えたばかりのスキルを試し撃ちして慣らしていくのだろう。
だが、着いていきなりスキルを使え、なんてことになるはずもなく、まずは百地先生によるスキル使用に関する青空教室が始まった。
「スキルの使用を行うには、特定の文言を口にする必要があります。その言葉はスキルによって違いますが、それはスキルの元となった『祝福』を祝福者が獲得した際の願いを元として作られているからです。その文言自体は、スキルを習得した者がスキルを使おうとした際に自然と頭の中に言葉が浮かび上がってくるはずですのであえて覚える必要はありません。まずは一例を見せましょう」
そう言いながら百地先生は一つ深呼吸をし、右拳を胸の前に掲げた。
「|再演(イミテル)」
百地先生がそう口にした瞬間、彼女の頭の上に淡いピンク色をした光輪が出現した。
その光輪は見た目からして伊達ではないとわかるが、その言葉も、ただの言葉であるはずなのになぜか心がざわつくような不思議な感覚があった。何とも言葉にはし難い感覚ではあるが、強いて言うのなら親近感だろうか? あるいは、俺の中の『祝福』が同類に反応しているのかもしれない。
「私を傷つける者は許さない。私の大事なものを奪う者も許さない。敵を倒して大事なものを守り抜くための力が欲しい。<——私は誰にも負けてはならない>」
百地が文言を口にし終えると、それまで感じていた違和感なんて比べ物にならないほどの違和感——〝力〟を感じた。
これが『スキル』を使った者ということか。でも……
「このスキルは身体能力を強化するというものです。効果のほどは……ふっ!」
短く息を吐き出すと同時に足下の地面を殴りつけ、百地の足下は大きく陥没し、ヒビが入った。
その光景に生徒達は目を見開いて驚きを露わにし、続いて自分たちも今のような力を使うことができるのだと思考が移り、顔に喜色を浮かべ出した。
「ご覧のように武器を使わずに地面を割ることができるほどの力を得ることができますが、それ以外にも銃弾で撃たれても多少怯む程度で済む丈夫さも手に入りますね。皆さんもそれぞれの能力があると思いますが、使用の際にはくれぐれも注意を」
生徒達の浮き足立っている空気を察してか、百地はそう言って生徒達に釘を刺した。だが、そんな言葉を聞いただけで落ち着くようであれば最初から浮き足だったりなんてしない。
そのことを教師側である百地も理解しているのか、小さくため息を吐き出してから緩く首を横に振り、話を続けた。
「さて、このように常識からは外れた力を手に入れることができる『スキル』ですが、決して無敵というわけではありません。同じように『スキル』を持った相手であれば条件は同じなのですから」
それは確かにそうだ。一般人を相手にするのであれば絶対的な力と捉えることはできる。だが、同じようにスキルを身につけた人間が相手であれば、〝スキルを使える〟というアドバンテージはなくなる。
「『スキル』は魔物と戦うためにある力なのに、それを人に向けることがあるのかという疑問がある方もいるかもしれませんね。ですが、あります。『スキル』を人間に向けることはあるのです」
その次に出てくるであろう言葉を察し、俺は自分でも知らないうちにグッと拳を固く握りしめていた。
そんな俺の内心なんて知らないまま、百地は言葉を続けていく。
「『魔人』。魔性に呑まれた人、という意味の言葉です。皆さんもご存知のことでしょう。『スキル』、あるいは『祝福』を得たことで増長し、好き勝手に振る舞う悪人、犯罪者のことを。この学園はスキルや祝福を用いて戦う人材を育成するための場所ですが、その相手は魔物、および魔人となります。ですので、くれぐれも注意をするように。皆さんも、いずれ彼らと戦うことになる日が来るでしょうから」
魔人。それは今より数年前に俺達の生活を台無しにした奴らと同類の名前。旅行中の俺達家族を襲い、俺達が祝福者という『化け物』になるきっかけを作った奴ら。
憎しみだけで行動するつもりはない。憎しみで人生を変えるつもりはない。
でも、あの時の魔人はすでに処理されているが、別のやつだとしてももし目の前に魔人が現れたら、俺はきっとそいつらと戦うことを選ぶだろう。
「ただし、魔人相手であれば色々と考えなければなりませんが、魔物が相手であれば『スキル』の使用はなんの問題もありません。むしろ『スキル』でなくては魔物を傷つけることはできないのですから積極的に使っていきましょう。皆さんも、ひとまずは魔物と戦うことを想定しての訓練を行うことになります」
魔物はイカれた『祝福者』の〝世界を終わらせたい〟という願いを元にした能力から生まれた存在であるため、『祝福』による力でしか効果的な傷を与えることはできない。だからこそ、世界の国々は増やしたくもない『スキル』なんて能力を開発し、学校を作ってスキルなんて能力を使える|生徒(バケモノ)を量産しようとした。
「それから、見て分かると思いますが、スキルを使用した際には頭部に天使の輪のようなもの、通称『ヘイロー』が出現します。目に見えない効果んスキルを使用された場合でも、相手の頭部さえ注意しておけば不意打ちを喰らうこともありません。逆に、何もしていないように見えてもヘイローが出現していた場合は警戒を怠らないように」
百地が能力を使おうとした瞬間に出てきた光輪——ヘイローだが、これがあるからこそ『祝福』は祝福と呼ばれるようになり、神からの贈り物だと言われるようになった。
だが、百地のヘイローは単純な光る輪っかであるが、これは彼女の能力が『スキル』だからだ。『祝福』のカケラでしかないため、ヘイローも劣化している。『祝福者』のものは『スキル』とは違い、余分な装飾がついているものだ。もっとも、その余分な部分は全力で能力を使わなければ出現しないので、軽く使う分には『スキル』と見分けはつかないが。
「この場所は『祝福』によって結界が張られていますので、内から外、あるいはその逆から攻撃が通ることはありません。ですが、内にいるもの同士であればなんの障害もなく攻撃は通ってしまうので、誤射には気をつけるようにしてください。スキルを使用する際は周りに十分確認してから行うように。それでは各自訓練を開始してください」
そうしてひとまずの説明が終わり、各自グラウンドのあちこちに散ってスキルを使用し始めた。
だが、当然のことではあるが初めてスキルを使えるようになってテンションの上がっている学生がおとなしく問題を起こさずにいられるわけがない。
とある学生が、はしゃぎすぎた結果スキルを暴発させてしまい、怪我をしてしまった。
炎や衝撃を扱う系統のスキルだったのか、ボンッと大きな音を立てて衝撃を週に撒き散らしたその生徒は、当然のことながらその衝撃をモロに受けて地面に倒れていた。
「気をつけなさいと言ったでしょう。仕方ありません、医務室に……」
倒れた生徒に駆けつけた百地が、その生徒に苦言を口にしつつ様子を確認し、立ち上がったのだが、そこで待ったがかかった。
「先生。ここは私にスキルを使わせていただけないでしょうか?」
聖女様だ。入学するよりも前から治癒系等のスキルを覚えることができると言われていて、実際に今回治癒系統のスキルを覚えることができたらしい、どこぞの国のお姫様。
そんな彼女が、倒れた生徒の元へと駆け寄り、自分が癒すのだと言い出した。
「ウィンドさん? そういえばあなたは治癒系統のスキルでしたね。わかりました。それではお願いします」
「はい。では……」
これが初めてのスキルの使用になるからだろうか。彼女は緊張した様子で自身の胸に手を当て、一度だけ深呼吸をした。
そして、倒れている生徒へと手を伸ばし、口を開いた。
「|再演(イミテル)・私は手を伸ばす。誰にも泣いていてほしくはないから。涙は敵で、涙を流す者も私の敵。全ての涙を拭い去り、みんなに笑っていてほしい」
「……え」
その口から吐き出された言葉が耳に入ってきた瞬間、俺の口からは自然と声が漏れていた。それはそうだろう。だってそのスキルは……その祝福は……
「<——この手は誰かの涙を拭うために>」
最後まで言い終えると、倒れていた生徒に触れていた手が輝き、次いで生徒自身の体も淡く光を放った。
その光は数秒ほど続き、光が消えた後にはそれまで存在していたケガなど始めからなかったかのように綺麗に消え去っていた。
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