10年間の叶わぬ片想い

越水ナナキ

第1話 10年間の叶わぬ片想い(現在)

 ふと自分のこれまでを振り返った時に一番に思い出すことはなんだろうか。これまでの成功体験や楽しい思い出、対照的に挫折、苦しみを思い出すのだろうか。


 私は、自分の勇気の無さを一番に思い出す。その勇気とは、一目惚れをし、本当に好きになった人への告白する勇気である。今でも思う、この苦く辛い記憶にはどうにも太刀打ちできない。


 私は、現在25歳にして生まれ育った県で会社員をしている。何の変哲も無い毎日を繰り返しで、何だか嫌気に似たような感情がいつも付き纏っている。SNSを見れば高校や大学の同期が輝かしいキャリアや日常を容易に想像できる、そんな投稿がいつも私の脳裏を襲う。


そう、彼女の投稿もである。


そう、自分の勇気の無さをとても悔やんだ、いや腹立たしい程に悔やんだ、悔やんでも悔やみきれない思いを持ったまま日々を過ごす1人の男が本当に好きになった人である。


そう、彼女の投稿には私などではない、男性と共に楽しく写っている。




「もう忘れろよ、切り替えろよ」



そう、何度も私は心で呟いた。

自分でも思う、異常な程に哀れだなと。

まだ心の奥底では、自分にも好機があるのではと楽観視している愚か者が棲みついているようだ。しかし、その可能性は天地が逆になったとしても皆無だろう。

自分でも思う、そもそもは自分の勇気が無かったからだと。



仕事中でも思ってしまう、彼女のことを。

気持ちの悪いことだとは、重々承知の上である。だが、やはり心残りはある。

10年間ものチャンスを逃して、いや自分から遠ざけていたのだから。

辛いなんてものじゃないのさ、泣き叫ぶことができるのならそうしたいぐらいの痛みを伴っているのだから。


過去に戻れるのならば、私は戻りたい。

ほんの少し、そう、ほんの少し、



「あなたに一目惚れしました、ずっと好きでした。」



と腹を括って言える勇気を持って。他のことはどうだっていいんだ。その一世一代の告白ができさえすれば、私は十二分に満足できただろう。


そう、失敗しようとも。

それが言えただけで、私は今、どれほどまでに自分を救うことができたのだろうか。仮に成功していたら、私は今、どれほどまでに幸福だっただろうか。



だが、そんなSF染みたことは起こるはずもない。


そう、そんな彼女との楽しい時間を別の誰かが過している。

この事実だげが私の胸の中を抉ってくる。



まったく、自分の勇気の無さには呆れたものだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10年間の叶わぬ片想い 越水ナナキ @koshimizu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る