第16話
盗賊たちにとっては予想外の後方からの敵襲、しかもそれは若く戦慣れした集団によるもので、まさに彼らの不在の分、村の不利になっていたものが、一挙に解消された。そして盗賊たちの後方は主に弓で武装した者と負傷者からなっていて、そこへ突然現れた敵に距離を詰められ、混乱し、逃げ惑う。
という状況を、アポさんは空から敵味方双方に報せる。
村人の士気は一気に上がり、歓声とともにそれまで押されていた情勢から押し返し始める。
(団長、敵の出っ張った所を教えてくれませんか)
ガイさんがたずねてきた。
出っ張っている所の意味はわかった。敵の抵抗が強く、押し返せないでいる場所を知らせて欲しいというのだろう。
アリシアさんを介して、出っ張った所を伝えると、ガイさんは道を離れ、その出っ張りを押し返すために移動する。
一方、アポさんは空から戦況を見て、チカさんを介して村長に必要な情報を伝えている。戦況はこちらの有利に進み、アポさんは俺たちのそばに降りてきて、第一階梯に戻る。
「お疲れ様、アポさん」
俺たちは口々にアポさんをねぎらう。
「本当に疲れましたので少し休憩です」
そう言いながら、アポさんはこの村を離れてから後の出来事を説明し始める。
どうやら、アポさんにとってはそれも休憩のうちらしい。
領主のもとへ派遣されていた村の若者たちは、先行するガイさんに大きく引き離されながらも村に向かっていた。
そしてガイさんの見立てでは、間もなく始まろうとしている盗賊たちの大攻勢には間に合いそうになかった。
そこでアポさんに彼らを村の近くまで空輸するよう、依頼したわけだった。
アポさんは空から捜索して、まだ山一つ向こうを移動中の彼らを発見し、事情を説明して、一人ずつ足でつかんで、村の近くまで運び、村に向かう道に接する森の中で待機してもらった。分け身を置いていったので、戻る時は、分け身のもとへ「
だが、その逆はできない。最初に運んだ村人のもとに分け身を置いていっても、「会同想着」で移動できるのはアポさん本人だけで、村人を一緒に連れていく事はできない。
この世界の見かけの法則なら、人類も他の物体も移動に関しては物理的な性質だけが重要で、質量が同じものに同じ力をかければ同じ速度で動く。
しかし、神の理では人類は特別な存在であり、神術を使う場合、他の物とは同等ではない。「会同想着」で移動できるのは巫女本人とその分け身だけであり、それ以外の人類を運ぶときにはいちじるしい制約があり、ごく一部の巫女がかなり特異な条件で実行可能とは言われているが、今回の輸送作戦には使えない。
なので、アポさんは村人を一人運んで、「会同想着」で戻り、また運んでを繰り返しているうちに、ガイさんからの連絡が来て、最後は二人いっぺんに運んで、間に合わせたというわけだった。
運ばれた者たちは多少休憩する機会を得、全員そろうと一挙に盗賊の後方を突いたのだった。
説明を聞いているうちにも、盗賊たちは追い詰められていた。
西にいた者たちは林の中に追い込まれ、一方東の方は戦いながらじわじわと西へ後退する。
やがて盗賊集団は林の中で一つの塊になるまで押し込まれた。頭は何とかして円陣を組ませて、村人の攻撃を防ぐべく、大声で指示を出すが、もはや自由に移動できないぐらいに混み合って、うまくいかない。
防御のためのきちんとした陣形をとれないままに、負傷者が増えていく。
ガイさんが、声を上げた。
「お前たちの頭に替わって、指図をしてあげよう」
そして手に持った槍で南を指した。
「今から南で包囲が解ける。おとなしく逃げるなら追撃はしない」
続いて村長が叫ぶ。
「南を開けろ!」
それとともに、南側の村人が引き、開いた包囲の穴から盗賊たちが争って南側に逃げはじめ、斜面まで達すると前のめりになりながら駆け下っていく。約束通り、村からの追撃はない。
前にいて邪魔になる者をののしりながら森の中を下る。その喧騒が遠くなった頃には雨はやんでいた。
そして林の中の道に一人だけ残った盗賊がいた。
あれが頭なのか。その巨漢は俺が初めて見るオグルだった
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