第29話

 俺たちが着いてからしばらくして、その六人の人物はやって来た。

 一人はねそこさんが言ったようにゴブリンで、村人と同じような衣服を着て武器らしきものは何も持っていない。残りのナランス五人は前に襲撃してきた盗賊たちと同様の姿だが、柄の長い太刀は帯にさし、手には持っていない。


 村長がそのゴブリンに言った。

大狩おおかり、ぬしは盗賊の仲間になったのか」

「健、わしはただこのあたりの村が争いにならぬよう、なんとかおさめようとしとるだけじゃ」

「盗人に言え」

「まあ、聞け。そちらに二人、捕らえられている者がおろう」


 その二人の捕虜の扱いについては、首を切って晒せという村人もいたのだが、捕まえたのは巫女様だからその判断にまかせると村長が言いきかせ、処遇は俺たちにゆだねられた。アポさんは盗賊についての情報を聞き出したいし、交渉に使える可能性もある、との意見で、今も生かされたままになっている。


「なぜまだ生きていると思う」

 村長の問いに

「さて、わしにはわからぬが」

 大狩と呼ばれたゴブリンは、そう言って後ろを振り返ったが、盗賊たちは知らぬふりをしている。


 大狩は向き直って言った。

「ともかく、盗賊の頭は言っておった。二人を返してもらえるなら、おさめる塩を減らしてやろうと」

「頭とやらも少しは人の心があるのか、だが信用ならん。なぜ本人が来んのか。それに塩は渡さん。そのつもりはない」


 村長と大狩の交渉はしばらく続いたが、結局まとまらずに大狩と盗賊たちは帰って行く。村人は番をするものを残して、矢防ぎのための作業を再開する。木を組んでならべ、萱を立てかけている。


 これが稲木なのか。似た物を稲の束をかけて乾燥させるために使っているのを見た事はあるが、名前は別だったような。いや、複数の名前があるのだったかな。


 そんな事を考えながら作業を見ていると、アポさんが話しかけてきた。

「恵さん、いい機会です。動物を探知する能力がどこまで使えるか、試してみませんか」

「やりましょう」

「では、ここにいてあの盗賊たちをどこまで追えるか探知してみて下さい。チカさんもそばにいて私に報せて下さい」

「わかりました」


 俺とチカさんが返答すると、アポさんは第五階梯に昇り、ヒトの大きさのコキンメフクロウの姿で飛び立っていく。

 村人たちはしばし手を休めて、感心したように青空を見上げている。


 俺は精神を集中させた。盗賊たちらしき六つの輝きを心の中に浮かび上がらせる事が出来た。彼らはゆっくりと下の方へ移動している。

(探知できますか、恵さん)

 アポさんが「黙信術」で話しかけてきた。

「できます」

 と俺が答えると

(できるそうです)

 とチカさんが伝えた。

(追跡できなくなったら教えてください)

 アポさんはそう言って、空高く円を描いて飛び続ける。

 それは盗賊たちからも見えているのだろう。その歩みは一度止まったが、再び動き出した。


 俺はその動きを追い続ける。

 六つの輝きを他と区別できるのは、大きさで選別をかけているからだ。周囲には人よりも大きな動物はいないからはっきりと探知できる。

 だが、距離が遠くなるにつれて、選別は難しくなる。離れるにしたがって、輝きは薄れる。選別をやめると再び見えるようになったが、他の小さな動物たちの輝きも現れてきた。それでも六つまとまって道を移動しているために、まだ識別はできている。探知距離を広げるにしたがって心の中の風景も広がり、輝きの大きさも相対的に小さくなり、輝き相互の間隔も狭くなってくる。

 やがて、追跡困難になり、その事をチカさんに伝えてもらった。


 アポさんはしばらく直線的に行ったり戻ったりしていたが、俺たちのもとへ降りて来て言った。

「支援中心に戻りましょう」


 第一階梯に戻ったアポさんは歩きながら、およそ520メートルが今回の探知限界だと教えてくれた。

「この距離だと北と南を同時に監視できませんが、哨戒網の一部に組み込めるでしょう。もう少し試してみてから、計画を立てましょう」

 俺はうれしかった。

 支援中心まで戻ると、村の女性たちが飯を持ってきてくれた。

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