第9話
チカさんは小柄な体つきで、茶褐色の短い髪に黄褐色の虹彩、おとなしくて真面目そうな女性だった。
目を覚ましたアポさんとともに、俺たちはチカさんから話を聞く。
帝国がここから遠い大陸に侵攻した時、チカさんとアリシアさんは侵攻に抵抗する国家連合に協力していたのだが、帝国軍に抗しきれず連合は瓦解。二人は他の何人かの巫女とともに、大洋を渡ってこの列島まで逃げてきたのだという。アリシアさんはその後転生した
「このあたりは盗賊たちが隠れる場所として利用しているという事もあって、見知らぬ人たちがいるのを知った時、素性を確かめようとしたんです」
なるべく相手に見つからないように近づいて確かめようとしたのだが、俺に驚かされてしまったのだった。
アリシアさんたちはチカさんに事情を説明した。人助けの義勇団の話を聞くとチカさんは一つの提案をした。
近くにある村が近々盗賊に襲われるようなので助けてはどうかというのだ。義勇団としての最初の仕事というわけだ。
アポさんが言った。
「私はとりあえずその村までの道を確かめに行ってみますから、その間にもう少しチカさんの話を聞いて置いてください」
「じゃこちらはそれまでに、尾根筋に沿ってあの山まで行っておくね」
アドラドさんがすぐ近くにある、休憩前に目指していた北の山を指して答えた。
アポさんは村の方角と特徴を聞いて飛び立った。俺たちは移動を再開してその山に向かう。
移動している間に俺はカニクイイヌの事を考えていた。和名はカニクイイヌだが、英名を直訳するとカニクイギツネ。学名のラテン語は属名がキツネイヌ、種小名がジャッカルと訳せる。
だが、前にも言ったがそれらのイヌ科動物たちとは特に近縁ではない。南米にいるイヌ科動物は他の地域と異なる独自の集団を形成しているが、体の特徴からの連想で名前にキツネやイヌ、オオカミをつけて呼ばれている。どの特徴に着目するかや命名する人の心象で違ってくるのだろう。俺自身はまぎらわしくなければ何でもいいと思っているが、イヌと付けて呼ぶのは割と気に入っている。
山頂近くの休める場所まで移動し、アポさんが戻ってくるまでチカさんに詳しい話を聞いた。
チカさんはその村、山田村というのだそうだが、その村の住人に頼まれて他の村から、もち米を運んでいた。その途中で盗賊が他の盗賊の集団と交渉している場に行き合わせてしまった。チカさんは盗賊に気づかれないように隠れながら、その話を聞いた。
それによると、最近遠くからやって来て盗賊に加わった男がいて、その男が話すには山田村は塩を買い蓄えている、それを奪ってしまおうというのだった。
話を持ちかけられた方は、なぜ遠くから来た男がそんな事を知っているのかと問いただした。持ちかけた方の答えによると、山田村はある落ち目の領主から塩を買った。それは領主の他は数人の重臣しか知らない件だったが、その領主は結局自領を立て直せずに他の領主に攻め滅ぼされてしまった。そして逃げ延びた重臣の一人が、今盗賊に加わった男なのだという。
盗賊たちはそれほど人数が多いわけではなかったので、分け前はその分減るが人数を集めて威圧するために、他の盗賊集団に話を持ち掛けたというわけだった。
話はすぐにはまとまらなかった。チカさんはその場を離れて山田村に報せに行く途中で、俺たちと出会ったわけだ。
チカさんが言うには、セリアンの巫女については盗賊たちも知っているはずで、山田村に加勢するとなれば、あきらめてくれるのではないかというのだ。
「盗賊の人数はわかってるの?」
アドラドさんが尋ねる。
「元の人数はおそらく7、8人で、そこからどれだけ人を増やすつもりなのかはわかりません」
盗賊の集団はその二つ以外にもあり、そちらにも話がいっている可能性があるという。
アリシアさんが言った
「戦わずに解決できればいいのですが。そうならなかった時の事も考えなければなりません。判断のためにはもっと知らなければならない事が色々とありますね。何より今の私たちには
アリシアさんたちは少し相談してから、俺に提案した。義勇団としての活動をするかは後で決めるとして、その村に行ってみようというのだ。
俺は特に自分の考えもなく賛成した。というよりは、どうやら一晩でも俺をその村で休ませようという意図が感じられて、申し訳ないと感じながら同意した。
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