第4話
そしてアドラドさんはまた形を変え始める。特に後ろ足の変化が大きく、ヒトの体形からウサギに近づいていく。
前の姿は、たとえるならウサギの着ぐるみを着たヒトに近いが、今はヒトの大きさのウサギが二本足で立っている様に見える。それでも、ところどころヒトを思わせるものは残っている。頭の形は第三階梯とそれほど変わらないし、肩や指の動きもヒトの様だ。
「第四階梯までくれば、動物の形の特徴の多くを生かせるようになります」
アリシアさんの説明に合わせてアドラドさんはウサギの様に跳ねてみせる。ただし体の大きさはヒトのままなので、ジャンプ力は大きく、10メートルほどを一気に跳んでみせた。
「そして教団でも尊敬される立場になるんだよ」
アドラドさんは冗談めかしてそう言ったが、俺には結構本気で自慢しているようにも聞こえた。
「そして組織で行動するより、俗世を離れて孤高の道を歩む者が現れ始めるころでもありますね」
アポさんがひかえめにそう口をはさむ。
アドラドさんはさらに変身して第五階梯に昇る。
それは体の大きさだけヒトのもので、ほとんどアナウサギの姿、ただわずかではあるがどこかに少しヒトである事を思わせるものが残っている感じがした。
「ここまで昇るというのは、うちの教団の巫女がめざすべき到達点。ここにいる三人ともまあ頑張ってたどり着けましたよ」
二本足で立ち上がり、人の言葉を話すアドラドさんは、アナウサギの姿をしていても、やはり表情やしぐさがヒトらしい。おそらく表情筋や指を動かす筋肉がヒトの様に発達していて、発声や直立歩行を可能にするためにそれらに関わる骨格や筋肉などもヒト寄りのものになっているのだろう。
「第五階梯は神の領域が見える階梯と言われます」
アリシアさんが真面目な口調でそう言う。
「見えるの?」
「かなたの星のごとくですが、見えます」
(見えるのか!)
俺は感心した。なるほど異世界へ俺を拉致するだけの事はあって、この三人は相当な実力者の巫女さんたちのようだ。そして残りの二階梯はどんな領域なのかと気になった。
そしてアドラドさんがいなくなっている事に気が付いて少し動揺した。いや、いなくなったわけではなく、もとの場所に小さなアナウサギの姿でちょこんと座っていた。
「第六階梯では、ほぼ動物の姿と大きさになり、人の声を発する事はできなくなります」
(だから直接、心で語り合う)
心の中にアドラドさんの声が響いた。
「なるほど、巫女さんはほとんど獣の姿になっても会話できるのですね」
(え、聞こえてるの!)
アドラドさんと他の二人も驚いた。
(そちらから語りかける事はできる?)
「いや、それは無理ですね」
(それは残念)
「でもこちらから伝わるだけでも、いざという時には役に立つでしょう」
アリシアさんは少しほっとしているようだ。
そしてアポさんはかなり喜んでいる。
「すでに巫女の力に目覚めているのでしょう」
(巫女の力?)
俺は不審に思ったが、ともかく階梯についての説明を聞いてからにしようと思った。
これは
そして、階梯を昇るほど、あるいは相手との絆が強いほど制約は弱くなるのだという。
(ちなみにアポとアリシアは第五階梯までだから)
どうやら二人に聞こえないように自慢をしているらしい、アドラドさんに俺は苦笑した。
アリシアさんは言う。
「現在、セリアン教団に属する巫女で第七階梯まで昇った者はおりません」
第七階梯は伝説の領域にあり、誰も到達した者はいないとも、実在かどうか不確かな伝説上の人物が成しとげたとも言われているらしい。
「第七階梯まで行ったら戻れない、とも言われますね」
アポさんはそう付け加える。
第七階梯に到達すると完全に動物になってしまい、人には戻れなくなるという説があるのだという。
そしてアドラドさんは第一階梯に戻った。
下の階梯に戻る時は自分の最高到達階梯まで昇ってから、第一階梯に移動。それ以外の方法で階梯を降りる事はできないのだそうだ。
その他いくつか階梯に関する説明があった。
だが、一度に全部をくわしく把握するよりは、重要そうな事から覚えていこう。
まずは、巫女さんによって到達した階梯の高さが異なり、黙信術の様な能力、
俺はそう考えてから、次の質問に移った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます