異世界でドブを浚う。
@mokamoka
第1話 『ドブ浚いのじじい』
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「おら!じじいぃっ、今日は逃がさねぇぞ。」
ヒュー、ヒュー、ゲホッゲホ、ああ、くそ、息がだめだ。
「さんざ、舐めたことしやがって、くそ爺が。」
目の前には下民区と貧民区の境のどぶ川が流れている。
「おう、どう落とし前つけんだぁ。」
来い!
水面に泡と共に黒い影が浮き上がる。
なんとか息を吞みこみ、どぶ川の影を目指して飛び込む。
「うおっ!」
「まてや、じじい。」
「くそっ、おい、飛び込め。」
「無茶言うな、ここは錬金ギルドが毒垂れ流してんだ。」
「そうだぜ、この前も酔っ払いが落ちて、全身赤やら、青やら、紫になってのたうって死んだの見たぜ。」
「おう、あの爺もすぐにくたばるぜ。」
「ちいっ、帰るぞ、くそったれ爺ぃが!」
*****
「げほっげほ、げぇえ、ちょっと吸ったか、違法投棄取り締まれよ。木っ端役人どもめ!げほっげほ。」
泥傀の腹の中、腐った臭いの空気とじっとりとした湿気で息を整える。
「このまま塒にもどれ。」
泥傀に命じる。
どぶ川の底、たまったヘドロの中を這いずるように泥傀が動き出した。
「はあはあ、ふうう。
なんでこうなる。
くずどもが。」
貧民区の闇市場を冷やかしていたら、フダツキどもが子供を囲んでいたぶっていた。
ぶつかったどうしてくれんだのよくあるヤツだ。
ただ、あまりにしつこく絡んでいるのがムカついて、野次馬の陰から、石を投げつけてやった。
兄貴と呼ばれて偉ぶってたヤツの後頭部に命中した。
のたうち回っていた。
それを見て、姿をくらますつまりだった。
予想外だったのは、周りのヤツらも一斉に石やら、なにやらを投げつけ出したことだ。
よほど鬱憤がたまっていたのかフダツキどもはドロドロ、ボロボロになった。
まあ、当然だ。
鼻つまみ者の末路だ。
メンツ丸つぶれ、ざまあ、見ろだ。
あれから一月以上たった。
俺が貧民区に入るとどこからか現われて追いかけてくる。
どうやってか俺が最初に石を投げたことをつきとめたらしい。
しつこい!
他にすること無いのか?
どうも無いらしい。
さんざ暴れていた強面の兄貴分が石ころ一個で倒された。
何処に行っても笑われ、石を投げられてるようだ。
特に同輩のフダツキたちがひどく嘲笑うらしい。
ああ言う奴らはメンツだけはこだわる。
ひとりよがりのメンツだけしかない。
俺を血祭にするしかメンツは取り戻せない。
だが、俺は逃げ足だけは自慢できる。
貧民区を引きずり回して、いつも逃げ切る。
結果、アイツラはどぶ浚いのじじぃ一人片付けられないハンパものと笑われている。
いい加減、鬱陶しい。
あいつらはドロップアウトした冒険者だ。
ギルドカードで下民区に入れるかどうかもあやしいチンピラだ。
闇市を取り仕切る大人たちの下請け達の更に下のお使い程度のホントの意味で大人たちの威を借りるネズミだ。
正直、チンピラなんぞどぶに引きずり込むのは簡単だが、
メンツの力学が闇市の大人たちにどう働くかわからない。
藪をつついて…、になりかねない。
ヤツらもあそこまで無様を晒しているんだ、
さすがにそろそろ、大人たちから回状がまわされるはず…。
ふうう~。
もうしばらく塒に籠るか。
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