超常監視協会訪問監査部の日常
@nemutaminZ
1-1 田中さん家
「うちテレビ無いんですー。」
「我々はどこぞの放送局じゃありません!すみませんが、ちょっとだけお宅に上がら
せてもらえませんか?」
休日の真昼間、呑気に食事をとっていたら玄関のチャイムが鳴り響いた。何か荷物を頼んだ覚えはなく、来訪者の予定もない。気が乗らなかったが、居留守をするほどやましい事があるわけでもない。仕方なく玄関に行き、ドアの覗き穴を確認するとスーツ姿の若い女性がいた。レンズ越しに見ても整った顔立ちをしており、確実に宗教勧誘か〇HKだ。しかし、どんな内容であれ美人さんと話す機会なんてそうそうあるもんじゃない。だるさ半分、うきうき半分の気持ちだが、今回はうきうき気分のほうが勝った。
「宗教勧誘もお断りしてるんでー。」
「宗教勧誘でもありません!実は田中さんのお宅の魔素が規定値を超えてまして、少
し上がらせてもらって確認させていただけるだけで良いんです。あ、これパンフレ
ットです。皆さんにお配りしているんですが。」
宗教のほうだったか・・・。はまってる人は皆おかしなこと言いながら違うって言うよなぁ。
国語辞典ほどのサイズ感がある分厚い本を渡され、表紙を見てみるとそこには「超常管理協会」という”いかにも”な名前が書いてある。そして聞き間違いだと思いたいが、パンフレットとはこんなにもかさ張るものなのだろうか。
「いや、うち結構散らかってるからさぁ・・・」
「どうしても、だめですかぁ・・・?」
レンズ越しではなく対面して改めて感じたが、とんでもない美人さんである。その美人さんが目を潤わせ上目を使い、困った表情を浮かべている。この懇願を断れる男は、いや人類は数える程しかいないに違いない。こうやって人は怪しい宗教に吸い込まれていくのだろうか。
「うあぁ・・・じゃあ少しだけですよ!見るだけなら3分で行けますよね!」
「ありがとうございます!3分あれば!それではお言葉に甘えて。」
目の前の美人さんはこなれた動きで靴を脱ぎ、さっと揃えてそさくさと俺の根城へ侵入していった。・・・家主は置いていかないでほしい。
「ちょっ!3分とは言ったけどせめて・・・!」
「あれ、思ったより小奇麗で何もないですね。魔素計の反応も微妙だなぁ・・・
壊れたかなぁ。」
ずかずかと家に入り込むものだから少し声を荒げてしまった。しかし美人さんは俺をそっちのけで何かを探すように部屋の中を見渡している。
「すいません、こちらのお宅は問題ないようです。ご協力ありがとうございまし
た!」
俺の休日の午後は、会話を右から左に聞き流しながら美人さんのご尊顔を楽しめるものかと思ったが、その訪問は驚くほど短時間で終わってしまった。安堵感半分、もどかしさ半分である。
しかし、俺の部屋を綺麗と言うのは、きっと彼女の部屋もかなり散らかっているのであろう。俺はもらったパンフレットをパラパラとめくり中身を斜め読みしながら、”本”のコーナーに収めた。まさか珍妙な品が向こうからやってくるとは。それにしても改めて見渡すと、少し物が増えすぎたかもしれない。我が事ながら、この収集癖は少し抑えなければいけない。明日は思い切って掃除でもしようか。
ふと”置物”のコーナーから気配を感じた気がしたが、例え気配があったとしても物がありすぎて発生源の特定は無理だろう。それともまたぶらっと旅行にでもいこうかな。面白いお土産が見つかるといいのだが。
超常監視協会訪問監査部の日常 @nemutaminZ
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