第2話 闇 風に刻む

自宅謹慎とされ俺が暮らしているマンションの一室へ案内される

記憶喪失という事もあり俺も住んでいる場所を知らず

警官も半信半疑ながら事務的に案内をこなす

マンションの駐車場にはバイクが置いてありそれが俺本来のバイクらしい


「じゃ、今度は夜遊びなんてするなよ」


「・・・はい」


「ほーん。窃盗を認めるわけだ」


違うと反論したかったが押しとどめる。ここで状況をややこしくするのは得策ではない。やるべく穏便に済ませる為に警官のいう事を唯々諾々いいだくだく首肯しゅこうする。


先ほどとは違う反応で調子が狂ったかわしゃわしゃと頭を掻きながら警官はひとりごちるように


「一応記憶喪失ってのは信じてやる。だからこれから迷惑かけんなよ」


「わかりました」


「たくかわいげのねえガキだぜ…」


年相応の反発的態度がなかったためか面白くないといった様子で再度ため息を吐く


そんな会話をしながら歩くこと数分。

案内されたのは46番の三階。五番目のドアの前まで見送ってもらった


「ほれ、ここがお前の部屋だ。一週間ここにいろよな?」


「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「殊勝な態度してれば許されると思うな。一番迷惑かけてんのはご両親と学校関係者だからな」


「はい…」


そこは深く反省している。拉致を証明できない以上俺の免罪符と呼べるのは記憶障害だけ。それ以外は夜中にバイクを盗んで眠って転倒。幸いけがはなく免許不携帯とバイク盗難というレッテルだけだ。これだけでも学園生活は不安だというのに俺はこれから謹慎を終えた後見知らぬ場所で学園生活を汚名を背負いながら通うとなるとあまりいい気分ではない。

まあそれよりも俺自身に起こったことが気になるのだが


案内を終え帰っていく警官に向け軽く手を振り俺はドアノブをひねる


一週間。一週間で記憶が戻ればいい。そんな希望的観測を打ち破るように

一週間はあっという間に過ぎ去りその間通院してレントゲンやCTを取ってもらったが体にも異常は見当たらなかった

不安は、よぎってなくならない



*************


過ぎた一週間何も問題がなかったため無事学校への通学を認められた

だが俺にとっては最悪だ。

生活には慣れたが記憶も戻らないし何より体に何の以上も見当たらないというのはおかしい。

何かを埋め込まれたのは確かで胸の傷が証明している。

だがそれ以上のことは何もわかっていない。

記憶が遠ざかったせいかあの手術も妄想だったかもと思い始める始末。

それでは身の潔白を証明できないと頬を叩いて再帰する


季節は7月らしい。夏休みも近く扉を開けた時吹き抜ける熱風をもろに浴びてしまう。頬を薙ぐ風は熱を纏ってやけどしそうだ

吹き抜ける風は通り抜けるように

全身に障壁となる俺の体を川の様に枝分かれに分岐していく

その間、緩慢に時間が流れる。止まったと錯覚する様に時間が縮小している


胸が、うずく


「リビングストリーム…」


謎の言葉を呟く


瞬間、強烈な音と共が響く。

ドアノブがひしゃげたのだ


「は?」


止まった時間が動く。そしてその事象は同時に引き起こったのだ

あまりに唐突なことが連続で起こり現実の処理が追い付かない


突風が吹いたと思ったら急にドアノブが壊れた。という事実は本来あり得ない事象だ


そしてドアノブが勝手に壊れたのではない。俺の指圧でねじ切れたのだ。


壊れたドアノブの形は無惨でありまるで圧縮された熱で溶かされたように飴細工の渦が出来上がっていた


―異常だ。今までになかった異常だ。この力はなんだ?俺の体に一体何が起こっているというんだ



************

無事学校へ着き一時的な異常も収まったことで学校へ行くというタスクはこなせた

突如起こった怪力と謎のワードは理解不能だがこのまま学校へ行かずにいるのも芳しくはない

そんな最中俺は自席にて頬杖を突きながら黄昏ている。

謎の力は起こることなく実に平穏だ。だからこそ自分の身に起こったことが嘘のように思えて誰何すいかに知られることがないという事実に寂寥せきりょうを覚える。あれは夢幻などではない。真実で現に俺には奇怪な現象が起きた。現実は確信へと着実に地に足がついている。ならば今後俺はどうすればいいのかという課題が出てそれを思案していると


「よっ。一週間のお休みどうだった?」


そう気さくに声をかける謎の人物。俺は首をかしげるしかない


「あ、そっか。記憶喪失だっけ?でもさ言い訳にしても厨二臭いよ~

まったく」


「いや、事実だ。俺は何も思い出せない。そして君のことも知らない」


「え?マジで?ふざけているとかじゃなくて…?はぁ~~~~~~じゃあ先生が言っていたこと本当ってワケか~。

・・・私は八雲やくもしおり。一応小学生からの付き合いなんだけどなぁ~」


そう説明している彼女は釈然としているがどこか悲しそうに見えた。まあそうだろう。一週間前まで覚えていた人物が長い付き合いらしい彼女と俺の記憶がなくなってしまったのだ。失念していた。俺は俺だけの不幸を棚に上げて他人の認知を怠っていたようだ


「すまない。忘れていて。俺も早く記憶が戻るように努めたい」


「・・・フフ」


そんな物憂い気な表情をかき消すように面映ゆく笑う彼女に対応が困る


「どうかしたのか?俺はおかしなことを言ったのか?」


「そうそう!昔はそんな口調じゃなかったんだよ。ハハッ!何その喋り方

仰々しすぎ―!!」


そういえば年相応の口調でない事に今更ながら気が付いた。元からこういう口調だと思い違和感がなかったがどうやら記憶がある時とは違うようだ


「だったら教えてくれ。俺はどういった人物だったか。そうすれば糸口になるかもしれない」


「うーん、私的には別に記憶がどーのってどうでもいいんだよねぇー。へへぇ。ねえ、じゃあ取引しない?私が神楽君のコト教えるからさ。その代わりお金ちょーだい?最近金欠なんだよねぇ!」


「む、それは困る取引だな。俺としても金に不自由を感じていたとこだ」


「はっはっは!やっぱり神楽君は神楽君だ。お金にがめついとこは変わんないね!!」


どうやらからかわれただけのようだ。かわいくない奴などと思いながらも


「無償でOKよ?まあ人助けですしお寿司記憶が戻るの手伝いましょー!!」


どこか彼女に魅かれるものを俺は感じた。記憶喪失初めての感情が淡い恋心とはなかな愉快なものだと思う

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