第21話 亀山結衣菜との撮影 5

〜亀山結衣菜視点〜


(青葉さんは変わった方ですね)


 青葉さんと葉山さんが仲良さそうに話している側で、本日何度も思ったことを再び思う。


(私のことを怒らず、先程は褒めてくれました。それに……か、可愛いと……っ!)


 先程、青葉さんは私の緊張を解すため…



『だから常に気を張って怖い顔をしながら撮影に臨まないでください。亀山さんは綺麗な女性なので笑った方が可愛いですよ』



 と言ってくれた。


 その言葉を思い出すだけで顔が赤くなってしまう。


(ほんと、青葉さんは今まで関わった男性とは違いますね)


 女性に対して怖がらず普通に話すことができることに加え、とても優しい。

 容姿も完璧なため、女性陣が青葉さんに夢中になることにも納得できる。


(もし私が亀山家に産まれなかったら、青葉さんを狙う女性たちの1人になっていたでしょうね)


 それくらい魅力的な男性だ。


(もしあの時のボディーガード対象の男性が青葉さんだったら……っ!あ、あの時のことは忘れましょう!)


 私がボディーガードに失敗し、亀山家の顔に泥を塗った件を思い出して首を“ブンブン”と振る。

 そんなことを振り返っていると名古屋駅に到着し、葉山さんの指示を受けながら電車に乗り込む。


「ねぇねぇ、見て!青葉くんよ!」

「ほんとだ!やっぱりカッコいいね!」

「しかも女性が怖くないみたいだよ!ほら!高校生くらいの女の子と仲良さそうに話してるし!」


 周囲にカメラがいるため何かの撮影であることは理解しているようで話しかけることはないが、すれ違う人たちや列車内にいる女性たちから注目を集めており、みんなが青葉さんの話題で盛り上がっていた。


(今日はガラガラで助かりました。満員電車だとボディーガードが難しくなりますからね)


 幸い、車両内はガラガラなため、今のところ注意すべきは近くにいる葉山さんのみとなるが、警戒を怠って再び亀山家の顔に泥を塗るわけにはいかないので適度にリラックスしながらボディーガードを行う。

 しばらく電車に揺られると二駅先の駅に到着し、私たちは下車する。

 そして『雪だるま』に向かう道中、私も青葉さんと葉山さんの会話に混ざり、撮影を盛り上げる。


「着きました!ここが私の実家、『雪だるま』です!」


 最寄り駅から数分歩き、目的地である『雪だるま』に到着する。


「案内ありがとうございます、葉山さん」

「いえいえ!ささっ!中へどうぞ!美味しいひつまぶしを提供しますよ!お母さんが!」


 そんなことを言いながら私たちを促し、座敷に案内してくれる。

 幸い、昼過ぎということもあり座席は空いていたため、スムーズに座ることができた。

 その時、葉山さん似の美女が店内にいたが、私たちを見ても驚く様子は見せなかったので、どうやらメッセージで事前に私たちが訪れることは伝えていたようだ。


「いらっしゃい。注文が決まったら教えてね」

「分かりました!」

「お母さん!私も手伝うよ!」

「普段、一切手伝わないのに青葉さんが来た途端手伝うとか言っちゃって」

「そっ、それは内緒にしてよ!」


 そんな可愛らしい親子喧嘩を眺めた後、私たちはメニューに視線を移す。


「俺はひつまぶしセットをお願いします」

「私もそちらをお願いします」

「はいよー!」


 私たちは注文を終え、しばらく雑談をする。


「やはりコチラでも青葉さんは注目の的ですね」

「あはは……なかなか慣れませんね」


 そう言いながら頬を掻く青葉さん。

 この店にいる客全員が女性ということもあり、周囲の客たちが青葉さんを見て盛り上がる。

 するとそこへメイド服を着た葉山さんがお冷を持ってやって来た。


「お冷になります!」

「ありがとう、葉山さん」

「いえいえ!それと……私の服装はどうですか?」


 その場で“くるっ!”と一回転をして青葉さんへアピールをする葉山さん。


「うん。とても似合ってるよ」

「えへへ〜、ありがとうございます!」


 同姓でも可愛いと思えるほど眩しい笑顔で葉山さんが喜ぶ。


「青葉さんは女性と普通に関われますね」


 その様子を見て、昔、亀山家の顔に泥を塗ることになった護衛対象の男性と比べてしまい、ポロッと呟いてしまう。

 その言葉を聞き、青葉さんが真剣な表情をする。


「昔、亀山さんの身に何があったかは聞きません。ですが、俺はその男性とは絶対に違うことだけは断言できます。なのでもっと肩の力を抜いて撮影を楽しんでください。笑顔の亀山さんはとても魅力的ですから」


 そう言って眩しい笑顔を向けてくれる。


「っ!」


(そ、その言葉と顔は反則です……っ!)


 青葉さんと共にする時間が増えるにつれ、どんどん惹かれている自覚がある。

 しかも青葉さんを見ると鼓動も速くなる。


(こ、これが恋というものでしょうか……?)


 幼い頃から三大名家として男性に対する耐性をつけることしか行っていなかったため、恋とは無縁の生活を行ってきた。

 そのため、今の感情が恋と断言できない。


(って、今はボディーガードです!亀山家の顔に泥を塗らないよう頑張らないと!)


 自覚しそうになった気持ちに一度蓋をして、私は気合いを入れ直した。

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