第16話 豊村花凛との撮影を終えて

 撮影を終え、俺たちはボーリング場を後にする。


「またね、花凛ちゃん!」

「うん!多分明後日は学校に行けるから!」


 豊村さんは雪菜と同じ学校に通っているため、学校で会うことができる。

 頻回にメッセージでやり取りはしているみたいだが。


「豊村さん、今日はありがとう。とても楽しい撮影だったよ」

「い、いえ、こちらこそありがとうございました。私も楽しかったです」


 そう言って笑顔を見せる豊村さんを見て、その言葉が本心だと理解する。


「それと豊村さんの歌、とてもいいね」

「そっ、そうですか?」

「あぁ。透き通った綺麗な声で一曲聴いただけでファンになったよ」

「あっ、ありがとうございます」


 そう言って嬉しそうに照れる。

 この世界に来て歌を全然聴いていなかった俺は豊村さんの歌を聴き、一曲聴いただけでファンになった。


「機会があればまた一緒に仕事しようね」

「は、はいっ!よろしくお願いします!」


 こうして豊村さんと別れ、俺たちは車に乗り込んだ。




 鮫島さんの車で家を目指す。


「お疲れ様でした」

「鮫島さんもお疲れ様でした」


 一日中俺が襲われないか気を張っていた鮫島さんにも労いの言葉をかける。


「来週の日曜はモデルの亀山結衣菜かめやまゆいなさんとの旅番組があります」


 以前、社長たちが俺に来ている仕事をピックアップした時、豊村さんとのCM撮影の他に旅番組とトーク番組の依頼を提示された。

 その時、全て引き受けることにした俺は、社長へ日程調整をお願いしていた。


「亀山さんは鮫島さん同様、男性に対しての耐性があるらしいので襲われる心配はありませんからね。収録が楽しみです」


 この世界には男性に対する耐性をつけ、絶対襲わないよう教育された家がある。

 その家は3代名家と呼ばれ、鮫島家と亀山家はその中に含まれている。


「でも3代名家の方は必ずと言っていいほど鮫島さんのように男性のボディーガードが就職先ですよね?」

「はい。基本的にはボディーガードが就職先となります」

「でも亀山結衣菜さんはモデルをしてますね」

「なぜ彼女がボディーガードではなくモデルをされているかは私も把握しておりません。ですが亀山家で男性への耐性はバッチリ身につけたとの本人も話しておりましたので大丈夫だと思います」

「モデルの才能があったからモデル業界にいるだけかもしれないからね!」

「だな」


(まぁ、何かあっても雪菜と鮫島さんが何とかしてくれるだろう)


「トーク番組の方も日程調整を進めておりますので、決まり次第連絡します。来週の日曜日も今日と同じ時間に迎えに行きますので準備のほどよろしくお願いします」

「ありがとうございます」


 そんな会話をしながら家に帰った。




〜豊村花凛視点〜


 青葉さんとの撮影を終えた夜、私は雪菜ちゃんと電話をしていた。


『どーだった?私のお兄ちゃんは?』

『か、カッコ良かった……』


 あのルックスは反則だと思う。


『私、青葉さん以上にカッコいい男性、見たことないよ』

『それは私もだよ』


 女性が圧倒的に多い世の中であることに加え、女性を避ける男性が多いため、街中でも男性を見かけることは少ない。


『いいなぁ、雪菜ちゃん。青葉さんがお兄さんで』

『ふふんっ!優しくてカッコいい自慢のお兄ちゃんだからね!』


 本心から思ったことを呟くと、雪菜ちゃんが嬉しそうな反応を見せる。


『でも兄妹で結婚はできないから、私はお兄ちゃん以上に良い人を見つけないといけないんだよねぇ』


 この世界は男性減少に伴い、一夫多妻制が導入されており、男性はたくさんの女性と結婚して養ってもらうのがこの世界の常識だ。


『ふふっ、最近それしか言ってないよ?でも気持ちは分かるなぁ』


 兄妹ということで頭を撫でてもらうなどのやり取りはできるが結婚はできないので、妹として産まれたことが良いことなのか悪いことなのか分からないらしい。


『女は狼になりやすいからね。間違っても青葉さんを襲ったらダメだよ?』

『わ、分かってるよ!お兄ちゃんから襲われたら抵抗しないけど……』

『一応理性はあるみたいだね』


 青葉さんから襲われたら抵抗しない部分に理性があるのかは謎だが、青葉さんを襲わないだけ素晴らしいことなので良しとする。


『私が襲ってお兄ちゃんが再び女性恐怖症になったら困るもん。せっかく仲良くなれたのに』

『だね。頑張って理性を抑えてね』

『はーい』


 そんな会話をした後、『あ、そーだ!』と雪菜ちゃんが声を上げる。


『花凛ちゃんはお兄ちゃんと結婚したい?』

『っ!ごほっ!ごほっ!』


 突然のことで私はむせてしまう。


『実際、花凛ちゃんはお兄ちゃんのこと、どー思ってるのかなーって』

『うっ、そ、それは……で、できるなら結婚したいです……』


 私は顔が真っ赤になるのを自覚しながら答える。


『おぉー!さすがお兄ちゃんっ!大人気アイドルを堕とすなんて!』

『だ、だって!あ、あんなに優しくされたら……っ!』


 私が重いボールを運んでいる時は優しく声をかけてボールを持ってくれた。

 他にも今日1日だけで青葉さんの良いところをたくさん知り、カッコいいだけの男ではないことを知った。


『このご時世、良い男は逃げないようにしないといけないからね。頑張ってね』

『うん!まずは連絡先を獲得するところから頑張るよ!』

『そうだね。あ、連絡先の交換は私がアシストするよ!』

『わーっ!ありがとー!雪菜ちゃん!』


 こうして雪菜ちゃんの伝手で青葉さんの連絡先をゲットした私は、その晩、青葉さんといくつかやり取りをして眠りについた。

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