第14話 豊村花凛とのCM撮影 2

 豊村さんのボールも持って5レーンに到着する。

 そのタイミングでカメラが回り始めた。


 ちなみにボディーガード件、マネージャーである鮫島さんはテレビ撮影の邪魔にならない場所で待機しており、豊村さんが可笑しな行動をとった時、すぐに駆けつけるよう準備している。


「よし、じゃあ投げてくるよ」

「は、はいっ!頑張ってください!」


 豊村さんの声援を受け、俺はボールを持つ。


(この世界の俺はボーリングなんかしたことないが、前世の俺は何度もやってる)


 前世の俺は容姿など全てにおいて普通だったのでモテモテな人生は送っておらず、男友達とのボーリングばかりだったが。

 そんな過去を振り返りつつボールを構え、一投目を投げる。

 “ゴロゴローっ!”と勢いよく転がったボールは先頭のピンに当たり、“ガシャーンっ!”という音が鳴り響く。


「すごいっ!ストライクですよ!」

「ははっ、偶々だよ」


 前世の俺はボーリングが得意というわけではなかったため、今回のストライクは偶々だ。

 マグレと言ってもいい一投目だったが、豊村さんが自分事のように喜んでくれる。

 そんな豊村さんに笑みを浮かべつつ、豊村さんとバトンタッチ。

 その際、すれ違いざまに笑顔で声援を送る。


「頑張ってね」

「〜〜〜っ!が、頑張ります……」


 顔を赤くした豊村さんが重たいボールをふらふらしながら運び、「よいしょっ」と可愛らしい声をあげながら胸の前で構える。


「えいっ!」


 重たいボールをピン目掛けて投げる。

 しかし無情にもボールは左へ転がりガーターへ。


「あぅ……失敗しました……」


 少し落ち込んだ表情で俺のもとへ戻ってくる。


「お、惜しかったよ!次頑張ろう!」


 そんな豊村さんを笑顔で励ます。


「あっ、ありがとうございます……」

「いえいえ。ニ投目、頑張ってね!」


 俺が笑顔で何かを言うたびに毎回顔を赤くしてくれるのでとても可愛い。


「よ、よしっ!」


 豊村さんが再びボールを構え、二投目を投げる。

 今回はガーターへ一直線に転がることはなかったが、どんどんボールが左に逸れ、1番左端のピン1本しか倒せなかった。


「うぅ……」


 目に見えて落ち込む豊村さん。


「だ、大丈夫だよ。まだ一回目だから」

「そ、そうですね!」


 再び笑顔で励ますと、落ち込んだ表情から笑顔を見せてくれる。


「青葉さん、頑張ってくださいね!」

「あぁ!」


 その後、俺たちは10回ほど投げ、少し休憩する。


「うぅ……全然ダメです……」


 俺は定期的にストライクを出しており下手なスコアにはなっていないが、豊村さんはガーターなどを繰り返しており、倒しても6ピン程度だ。


(その原因はわかってるから少しアドバイスしようか)


 そう思い、俺は豊村さんの前に行く。


「豊村さん、少しだけアドバイスをしてもいいかな?素人の俺がアドバイスとか烏滸がましいとは思うけど」

「い、いえ!素人だなんて思いませんよ!私よりもスコアは良いし、ストライクを何本も取ってますから!是非お願いします!」


 との了承をもらったので、俺は簡単にアドバイスをする。


「豊村さんは投げたボールが全て左側に行ってる。おそらくだけど投げる瞬間、腕が真っ直ぐ出らず左に出てるんだ。だから左側にボールが転がってる」

「な、なるほどっ!」


 おそらく身体の使い方も悪いとは思うが、その辺りは素人なので触れず、今すぐ治せる腕の振りだけアドバイスする。


「あとは投げる時、ピンを見て投げるのではなくレーンに書かれてる小さな三角を見ながら投げたらいいよ。そしたら真っ直ぐ転がると思うから」

「分かりましたっ!ありがとうございます!」


 そう言って、先ほどまで落ち込んでた豊村さんが元気にレーンへ向かう。


「腕を真っ直ぐ出す……見るところは小さな三角……」


 そんなことを呟きながら胸の前で構え、一投目を投げる。

 すると、ボールは左側に逸れることなく先頭のピン目掛けて一直線に転がる。

 そして“ガシャーンっ!”という派手な音とともに、全てのピンが倒された。


「や、やった!やりましたっ!」


 その場で可愛く跳ねた豊村さんが俺のもとへ駆け寄ってくる。


「おめでとう、豊村さん」

「ありがとうございます!青葉さんのおかげです!」


 そう言って可愛らしい笑顔を見せる。

 豊村さんは現役アイドルということで運動神経は悪くないので、投げ方さえ分かれば問題ないと思った。


(一投目でストライクを出すとは思わなかったけど)


 そんなことを思いつつ俺は豊村さんに向けて両手を出す。


「……?」


 俺の行動理由が分からなかったのか、可愛い顔で首を傾げる豊村さん。


「ハイタッチだよ!豊村さんがストライクを取ったんだから!」

「は、ハイタッチ……っ!」

「あぁ!遠慮することはないよ!」


 監督からもハイタッチのシーンは撮影したいと言っていたので、早速行ってみる。


「こ、こうですか?」

「そう!それで……こう!」


 恐る恐るといった様子で両手を出す豊村さんへ、俺は優しくハイタッチをする。


「「「「きゃぁぁぁっ!!」」」」


 その瞬間、周囲の女性陣が騒ぎ出す。


「あ、青葉くん!自分から豊村さんの手に!」

「あんな男の子、漫画でしか見たことないよ!」

「やっぱり青葉くんは女性の身体に触れても大丈夫なんだ!」

「私も手を出したらハイタッチしてくれるかな!?」


 そんな声が聞こえてきた。


(ハイタッチしただけなのに大袈裟な……)


 そんなことを思い、苦笑いしながらボールを投げるためレーンへ向かう。


 そのため…


「あ、青葉さんとハイタッチ……っ!」


 顔を真っ赤にしながら自分の手を見つめる豊村さんに気が付かなかった。

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